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影男-密室之谜(4)

时间: 2022-02-16    进入日语论坛
核心提示:「人を殺してから、家を建てる。この着想は実におもしろいと思う。ここのレンガ建ての離れ家は、聞けば、ごく最近でき上がったと
(单词翻译:双击或拖选)

「人を殺してから、家を建てる。この着想は実におもしろいと思う。ここのレンガ建ての離れ家は、聞けば、ごく最近でき上がったということです。皆さんは建築が完成してから殺人が行なわれたとお考えになっている。まことにもっともなお考えです。人は全部建築ができてからでなければ、そこに住まないのが普通ですからね。
 ところが、それを逆にしてみたらどうでしょう。犯罪者のトリックというものは、いつも常識の逆をいって、人の虚を突くものです。つまり、常識の盲点を利用するわけですね。こんどの殺人は、建物が完成するかしないかの、きわどいときに行なわれました。もし、トリックをろうする余地ありとすれば、そこにこそあるべきです。
 ぼくは見ていたわけではありませんから、どこをどうしたという具体的なことはいえません。ただ、原理を申しあげるにすぎないのです。あの離れ家の壁が全部でき上がらないうちに、ドアや窓を完成したと仮定します。そして、ドアには中からカギをかけ、かんぬきをおろし、窓には鉄ごうしをはめ、ガラス戸に掛け金をかける。しかし、まだ壁には人間の出はいりできるほどの穴があいているのです。その穴から犯人が逃げ出して、外からレンガで、その穴をふさいでしまう。これも一つの着想です。建築の方式にない順序ですから、人の意表を突くのです」
 そのとき、またさっきの鑑識課員が、口をモゴモゴやって、何かいいだしそうなふうに見えたので、紳士はそれを手で制して、
「あなたのおっしゃろうとしていることはわかります。それをこれからお話しするのです。いま申しあげた方法は、こんどの場合にはあてはまりません。なぜといって、壁はレンガだけでなくて、室内の側には、レンガの上から漆喰(しっくい)が塗ってありますし、また、板の腰張りがあります。犯人が外に出てから、こういう内側の細工をすることは、とてもできません。ですから、こんどの場合には、この方法は除外しなければならないのです。
 では、ほかにどんな方法があるのか。実に簡単な方法があるのです。レンガ職人でも左官屋でもかまいません。それをひとりだけ残しておいて、殺人のあとで仕事をさせるのです。どこの仕事か――。窓の鉄ごうしをはめる仕事です。おわかりですか。鉄ごうしをはめるまえに殺人をやるのです。そして、犯人は窓から逃げ出す。そのとき、窓ガラス戸の掛け金は、まだかかっておりません。
 それからどうするのか、犯人は職人に死体を見せてはたいへんなので、逃げ出すまえにシーツのようなものを死体の上にかぶせておきます。そして、そのシーツのどこかに太い糸を結びつけて、その糸のはじを、窓の外から手をのばせばつかめるような個所に、ちょっと結んでおくのです。ガラス戸の掛け金に結びつけてもかまいません。
 さて、窓から出たら、ガラス戸をしめて、それから職人を呼んで鉄ごうしをはめさせるのです。聞けば、こうしの鉄棒は一本ずつセメントの中に深く埋めてあるということですから、そのセメント塗りの仕事をやるわけですね。そして、鉄ごうしが完成して、職人が帰ったあとで、外から窓のガラス戸をひらき、さっきの糸のはじをひっぱって、シーツを外へ引き出してしまう。それから、ガラス戸の掛け金を上にあげておいて、静かに戸をしめてから、掛け金の外側を強くたたくと、掛け金がその響きで受け金の中に落ちて、戸締まりができるというわけです。乾燥剤を入れたセメントを使えば、一日でかわきます。そして、二、三日たってから事件を起こせば、建物全体が新しいのですから、どこが最後に仕上げられたか見分けられるものではありません。これなら、どこにも不合理なところはありますまい。いかがです。これはただ一例ですが、こういう方法も可能だということを申し上げたかったのです。
 それから、もう一つだけ申しそえることがあります。いま仮定したのは、室内で殺人をやって、犯人が外へ逃げる場合ですが、その逆も考えうるということです。あらかじめ屋外で殺人をやっておいて、工事の進行のちょうど適当なときに、職人が帰ったあとで、その死体を、今の例でいえば、窓から室内に持ちこむという方法です。この場合も、ほかの点は、すべてまえと同じ順序なのです。
 ぼくの申し上げたいことは、これだけです。では、皆さん、失礼します」
 松下という紳士は、そこでていねいに一礼すると、あっけにとられている人々のあいだをくぐるようにして、門のほうへ歩いていった。
 門を出ると、一町ほど向こうを、つんつるてんの黒セビロを着た谷口じいさんが、ちょこちょこと小走りに歩いて行くのが見えた。じいさんは、いつのまにか、庭の人々のあいだから逃げ出していたのだ。
 松下紳士は、駆けるようにしてそのあとを追い、たちまちじいさんに近づいていった。
「やっぱり逃げ出しましたね。あれほどぼくがいっておいたのに」
 うしろから声をかけられて、じいさんはギョッとしたように振り返った。
「おや、あなたはさっきのおかた」
「しらばっくれてもだめだよ。せっかくの密室トリックも、すっかり種が割れてしまったんだからね」
 紳士のことばがにわかにぞんざいになった。
「といいますと?」
 じいさんはきょとんとしている。
「ハハハハハ、おしばいはうまいもんだね。だがね、さっきの死体がにせものだってことは、もう今ごろ、病院でばれてるころだぜ」
「え、え、なんとおっしゃる。あの死体がにせもの……」
 じいさんは、ほんとうにびっくりした様子だ。
「ハハハハハ、おどろいているな。おい、じいさん、もうそのひげを取ったらどうだ」
「え、このひげを?」
 まだしらばくれようとするのを、紳士はいきなりじいさんに飛びかかって、白い口ひげとあごひげを、むしりとってしまった。すると、その下から現われたのは、意外にも、殺人会社専務、須原正の泣きだしそうなしかめづらであった。
「須原君、さすがのきみも、まんまとしくじったね」
 だが、須原には、この紳士が何者だか、まだ判断がつかなかった。
「で、あんたは、あんたは、いったいだれです?」
 哀れな声で尋ねた。
「わからないかね。ぼくだよ。この口ひげとめがねがないものと思って、よく見てごらん。ほら、ね。ウフフフフフ」

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