返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 夏目漱石 » 正文

虞美人草 十 (13)

时间: 2021-04-11    进入日语论坛
核心提示:「兄さんは銀時計もいただけず、博士論文も書けず。落第はする。不名誉の至(いたり)だ」「あら不名誉だと誰も云やしないわ。ただ
(单词翻译:双击或拖选)

「兄さんは銀時計もいただけず、博士論文も書けず。落第はする。不名誉の(いたり)だ」
「あら不名誉だと誰も云やしないわ。ただあんまり気楽過ぎるのよ」
「あんまり気楽過ぎるよ」
「ホホホホおかしいのね。何だかちっとも()にならないようね」
「糸公、兄さんは学問も出来ず落第もするが――まあ()そう、どうでも好い。とにかく御前兄さんを好い兄さんと思わないかい」
「そりゃ思うわ」
「小野さんとどっちが好い」
「そりゃ兄さんの方が好いわ」
「甲野さんとは」
「知らないわ」
 深い日は障子を(とお)して糸子の頬を暖かに射る。俯向(うつむ)いた額の色だけがいちじるしく白く見えた。
「おい頭へ針が刺さってる。忘れると危ないよ」
「あら」と(ひるが)える襦袢(じゅばん)(そで)のほのめくうちを、二本の指に、ここと(おさ)えて、軽く抜き取る。
「ハハハハ見えない所でも、(うま)く手が届くね。盲目(めくら)にすると(かん)の好い按摩(あんま)さんが出来るよ」
「だって()れてるんですもの」
「えらいもんだ。時に糸公面白い話を聞かせようか」
「なに」
「京都の宿屋の隣に(こと)を引く別嬪(べっぴん)がいてね」
端書(はがき)に書いてあったんでしょう」
「ああ」
「あれなら知っててよ」
「それがさ、世の中には不思議な事があるもんだね。兄さんと甲野さんと嵐山(あらしやま)へ御花見に行ったら、その女に逢ったのさ。逢ったばかりならいいが、甲野さんがその女に見惚(みと)れて茶碗を落してしまってね」
「あら、本当? まあ」
「驚ろいたろう。それから急行の夜汽車で帰る時に、またその女と乗り合せてね」
(うそ)よ」
「ハハハハとうとう東京までいっしょに来た」
「だって京都の人がそうむやみに東京へくる訳がないじゃありませんか」
「それが何かの因縁(いんねん)だよ」
「人を……」
「まあ御聞きよ。甲野が汽車の中であの女は嫁に行くんだろうか、どうだろうかって、しきりに心配して……」
「もうたくさん」
「たくさんなら()そう」
「その女の(かた)は何とおっしゃるの、名前は」
「名前かい――だってもうたくさんだって云うじゃないか」
「教えたって好いじゃありませんか」
「ハハハハそう真面目(まじめ)にならなくっても好い。実は(うそ)だ。全く兄さんの作り事さ」
(にく)らしい」
 糸子はめでたく笑った。

轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

热门TAG: