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虞美人草 十五 (6)

时间: 2021-05-05    进入日语论坛
核心提示:「じゃあ、まだ話さないんですね」と藤尾が云う。茶の勝った節糸(ふしいと)の袷(あわせ)は存外地味(じみ)な代りに、長く明けた袖
(单词翻译:双击或拖选)
「じゃあ、まだ話さないんですね」と藤尾が云う。茶の勝った節糸(ふしいと)(あわせ)は存外地味(じみ)な代りに、長く明けた(そで)(うしろ)から紅絹(もみ)の裏が婀娜(あだ)な色を一筋(ひとすじ)なまめかす。帯に代赭(たいしゃ)古代模様(こだいもよう)が見える。織物の名は分らぬ。
「欽吾にかい」と母が聞き直す。これもくすんだ縞物(しまもの)を、年相応に着こなして、腹合せの黒だけが目に着くほどに締めている。
「ええ」と応じた藤尾は
「兄さんは、まだ知らないんでしょう」と念を押す。
「まだ話さないよ」と云ったぎり、母は落ちついている。座布団(ざぶとん)(ふち)(まく)って、
「おや、煙管(きせる)はどうしたろう」と云う。
 煙管は火鉢の向う側にある。長い羅宇(らお)を、(ぎゃく)に、親指の(また)に挟んで
「はい」と手取形の鉄瓶(てつびん)の上から渡す。
「話したら何とか云うでしょうか」と差し出した手をこちら側へ引く。
「云えば御廃(およ)しかい」と母は皮肉に云い切ったまま、下を向いて、雁首(がんくび)へ雲井を詰める。娘は答えなかった。答えをすれば弱くなる。もっとも強い返事をしようと思うときは黙っているに限る。無言は黄金(おうごん)である。
 五徳の下で、存分に吸いつけた母は、鼻から出る煙と共に口を()いた。
「話はいつでも出来るよ。話すのが好ければ(わたし)が話して上げる。なに相談するがものはない。こう云う風にするつもりだからと云えば、それぎりの事だよ」
「そりゃ私だって、自分の考がきまった以上は、兄さんがいくら何と云ったって承知しやしませんけれども……」
「何にも云える人じゃないよ。相談相手に出来るくらいなら、初手(しょて)からこうしないでもほかにいくらも遣口(やりくち)はあらあね」
「でも兄さんの心持一つで、こっちが困るようになるんだから」
「そうさ。それさえなければ、話も何も()りゃしないんだが。どうも表向(うち)の相続人だから、あの人がうんと云ってくれないと、こっちが路頭に迷うようになるばかりだからね」
「その癖、何か話すたんびに、財産はみんな御前にやるから、そのつもりでいるがいいって云うんですがね」
「云うだけじゃ仕方がないじゃないか」
「まさか催促する訳にも行かないでしょう」

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