編集室にはときどき熊が坐っていてドギモを抜かれることがある。
Rの嗅覚はものすごいもので、初めて現われたときも彼は匂いをたよりに歩いてきたと言った。いつも主が居るとは限らぬ編集室なのに私はかならず彼につかまってしまう。
冬など黒っぽい毛皮のコートを脱がないで向こう向きに坐っているのだから、朝早く熊が出たとドキンとするわけだ。
「しんコさん(このアクセントを文字で表現できないのがくやしい)、おはようございます。お邪魔いたします」
「いらっしゃい、ようこそ。でもこんなに早くどうやって?」
「ハイ、夜行に乗って西へくだる途中ですたい。ちょっと顔をば見とうなりましてハイ」
私は大急ぎでごはんを炊き、特大のにぎりめしを作る。彼は梅干しを入れたのが大好きなのだ。七ツも握ると熱くて熱くててのひらがまっ赤になる。Rは神妙に待っている。
番茶をすすっておにぎりを食べて「そんじゃまた」とたちあがるときもあれば、夕方まで話し込んで編集室に泊まって帰ることもある。
ある朝、編集室へ行くと布団はもぬけのからでRはもう出発したあとだった。机上に手紙が置いてある。五十男の手紙である。
「──私がこの様に母を慕うのはおかしいでしょうか。私は母親を知らんのであります。若いときは左程でもなかったことが年をとるにつれて気になってなりません。自分を生んでくれた人はどんな人なのか、生きているのか死んでいるのか、それだけでも知りたいのであります。
母を憎いと思うときもあります。小さい時から働きづめで、今も私はがたがたのからだで工場の部品のように働いている。このことで母親を恨みはしませんが、私を捨てたことは許せなくなるときがあります。それでも母を慕うのであります。
酒もそうでありました。やけになって飲んで酒乱になり誰からも相手にされなくなって、だからよけいに酒を飲みました。アルコール中毒はこわいです。私はよい友達にめぐまれて酒から脱出しましたが、正月や盆や祭りがつらく思えます。みんながお酒を飲むとき動揺するのは弱虫ですからもっと強くなります。こんど飲んだら一巻のおわり。川柳ができなくなるから頑張ります。新子様もどうかからだだけは大事にして下さい。さようなら」
母を憎いと思うときもあります。小さい時から働きづめで、今も私はがたがたのからだで工場の部品のように働いている。このことで母親を恨みはしませんが、私を捨てたことは許せなくなるときがあります。それでも母を慕うのであります。
酒もそうでありました。やけになって飲んで酒乱になり誰からも相手にされなくなって、だからよけいに酒を飲みました。アルコール中毒はこわいです。私はよい友達にめぐまれて酒から脱出しましたが、正月や盆や祭りがつらく思えます。みんながお酒を飲むとき動揺するのは弱虫ですからもっと強くなります。こんど飲んだら一巻のおわり。川柳ができなくなるから頑張ります。新子様もどうかからだだけは大事にして下さい。さようなら」
 追伸の「おにぎりのあまった分もらって帰ります」に笑いながら私は夜具を干すのであった。
母のない子に柔かきフランネル
手拍子がどこかに聞こえ鴉《からす》はあるく
真心の真上を貨車は通過せり
手拍子がどこかに聞こえ鴉《からす》はあるく
真心の真上を貨車は通過せり
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