こぼれるように
切り花を積んで
さびついた自転車を
老女が
押して来る
鈍色のぶらうすから
日焼けした腕が太い
遠い日に
彼女がなくしたものを
私は 大事に抱え
私が 捨ててしまったものを
花が 持っている
感情を溜めるだけの
勇気があれば
一日は
こんなに簡単には終わるまい
いき
花の 呼吸 と
いき
私の 呼吸 が重なって
両肩に
もたれていることに
この人は
気づいているだろうか
ポッと
明るい灯を背負った
花売りは
今
角を曲がって行った
置き去りにされて
私は
心をすりむいた