はずそうともがいても
呪縛にかかったようにはずれない
古ぼけた迷子札
五歳の時
母が私の頭をなでながら
無言で首に
迷子札をかけてくれた
××郡××村字××
山峰キヨ長女 照子
十六歳の私は
憑かれたように走り続けた
見なれた
お地蔵さんが
半鐘台が
どんどん遠ざかってゆく
突然見知らぬ海がひろがった
止まっていたヨットに
乗ろうとする私の前へ
迷子札にすいよせられたように
白っぽい服の老婆があらわれた
そして私を
母の所へつれもどした
家の前では
母が白い手で
おいでおいでをしていた
いまも迷子になるたびに
霧の奥で
おいでおいでをしている
母の白い手のところへ
誰かが私をつれて行く