闇にたち込められてゆくけやき通りに
うらじゃ音頭が鳴り響く
二千年近くも昔
吉備の国へ百済より王子がやってきた
王子はさまざまな悪事を働き
温羅と呼ばれて人々に恐れられた
岡山に古くから伝わる温羅伝説
踊り手たちは
古代を思わせる 衣装を メーキャップを
スポットライトに浮かびあがらせながら
この 一瞬 一瞬に 魂をゆだねきる
私たち観衆の見守るなか
六千人の踊り手たちの体温が溶けあって
ひとつの祈りとなり
よろずの神々へ願いをささげた遠い昔を
この闇のすぐ向こうに連なる未知を
群青色に静まるこの世の高みを
茜色に染めあげてゆく
いつも形のない不安に脅かされてきた私
胸を張ったら不安が大きくなりそうで
背中を丸めて生きてきた
閉じ込められた心の中で
中途半端な想いが淀みとなった
今
本能をくすぐるうらじゃ音頭に
熱気をはらんだ踊り手たちの足さばきに
眠っていた私のなかの遺伝子が目覚める
陽気でちからの限りを生き抜いた
祖父の遺伝子が
思いきり開かれた私の胸から
閉じ込められていた想いが溢れでる
そして
踊り手たちの 手に 足に 流れ込んで
うらじゃ うらじゃ と 踊りはじめる