ひっそりと呼吸をしている
わたしの海よ
女という字をほどく時
時には天女と崇められ
時には聖母と賛えられ
時には魔物と罵られる
この理不尽な現実よ
昨日と今日が絡み合う
その現実で揺れながら
わたしは淑女を脱ぎ捨てて
夜更けに小さく口笛を吹く
焦がれた想いは断ち切れず
火種のような林檎を抱いて
わたしは外海へ漕ぎ出した
わたしの海は黙ったままで
波間に下弦の月を落とす
女の海の魚たちよ
いっせいに陸に上がるがいい
そうして中途はんぱな神話など
すっかり手放してしまえばいい
母性の形は無限大で
しょせん男に勝ち目などない
畏れてはならない
踏み出すことを
失うものなど取るに足りない
人間という生き物にとって
何か一つ二つ足りないくらいが
ちょうど良い
それが本物の幸せなのだと
わたしの海は
意地悪く笑う
わたしは夜を脱ぎ捨てて
朝の光に満たされてゆく
女という字をするするほどいて
今日は何に生まれ変わろうか