写真を撮るのも撮られるのも大好きで、山のようにアルバムを持っている人がいるが、私はその反対である。子供の頃は親が撮ってくれた写真があるものの、高校生のときは三年間のクラス写真と、遊びにいったときのものが、一、二枚あるのみ。大学時代は一枚。それからずーっとなくて、こういう仕事をし始めてやっと枚数が増えてきたというくらいである。
三歳のときだったと思うが、親に連れられて町内の写真館で、記念写真を撮ってもらったことがある。ところが大好きなカメラがでんと目の前にあって、いくらきれいな着物を着せられていたからといって、そんなににこにこ笑えるものではない。親は私が気に入っている、熊ちゃんやあひるさんのぬいぐるみを持って、一生懸命笑わせようとするのだが、やはり顔がこわばってしまう。そこに口をはさんできたのが写真館のおじさんである。優しく、
「ほーら、お嬢ちゃん、ここから鳩がでますよ」
とレンズを指すしながらいった。いくら緊張していてもそこは子供で、本当に手品のように鳩がでてくるのだと信じてしまう、うれしいなあと、じーっとレンズを見つめているうちにフラッシュがたかれてしまったのである。ほっとした大人たちと反対に、私はムッとしたのはいうまでもない。
「おじちゃんが嘘をついたあ。鳩なんかででこないよ」
と、すさまじい声で泣き出して彼をなじった。それ以来、写真館のおじさんは、私の姿を見ると、そそくさと走り去っていったそうである。
どうも私の写真嫌いは今に始まったことじゃないらしい。カメラマンには、
「妙に写真すきで、ポーズをとる人のほうが撮りにくい」
といわれたこともあるが、やっぱり堂々と自信を持って写真に撮られるほうがいいと思うのだが。