私の家の近くにあるスーパー?マーケットは、あまりに店員さんの応対がていねいで、こちらが恐縮してしまうことがよくある。たとえば、その店で一リットル入りの牛乳一パックを買う。するとレジで袋詰めしてくれる店員さんが、てきぱきと他人の品物も入れながら、「牛乳を横にさせていただいてかまいませんか」
と聞くのだ。私はいつも、
「はい」
と返事をするのだが、たかが物を横するくらいで、そのくらいていねいなのである。
ある日、私は鍋物でもしようと長ネギを買った。そして豆腐や椎茸などと一緒にレジに持っていくと、袋詰め担当の店員さんが、私に向かって何事か尋ねた。最初は何をいわれたのかわからなかった。牛乳を買ったいたら横にしてもいいか、アイスクリームだったらドライアイスの必要がありやなしやと聞かれるのだが、その日は両方とも買っていなかったからだ。
「はっ?」
と聞き返すと、彼女は私の目をじっと見て、静かな声で、
「おネギをお曲げしてよろしいですか」
といったのである。私はビックリ仰天した。とりあえず「はい、いいですよ」
と返事をしたものの、こんなことまでていねいに聞かれるなんて想像もしなかった。きっと過去に、袋に入れるときに黙って牛乳パックを横にしたりネギを曲げたら、 怒った客がいたのだろう。それから気をつけて観察していると、五人に一人くらいは、
「横にしないで!」とか、
「曲げないで!」
ときっぱりいうお客さんがいた。飾りのいっぱいついた服を着た、傲慢そうなおばさんである。牛乳パックだってそう簡単に壊れるものじゃないし、長ネギだってあとで切るんだから、別にいいじゃないかと私は思う。それにしても、いちいちお客さんに、
「おネギをお曲げしてよろしいですか」
と、ていねいに聞かなきゃならないなんて何て大変なことだと、店員さんに同情してしまったのだった。