外国旅行行くとなると、事前に山のような日本食を買い込む人がいる。スーツケースの半分が、真空パックのご飯、味噌汁、焼き魚の缶詰め、梅干、佃煮の類いで占められていて、
「こういうの知ってますか」
と、水をかけるとすぐ大根おろしができる、粉状の乾燥大根を得意げに見せてくれる人もいたりする。私も病気になったときのために味噌汁を二食分くらいは持っていくけれど、わざわざ重たい思いをしてまで、日本のちゃぶ台にのっているようなものを持っていく人の気がしれないのである。
特に日本食に執着するのは男の子が多いみたいだ。二年ほど前に海外旅行に行ったときに、到着早々レストランで貝を油で炒めたものが大きな皿で出された。「あら、おいしそうだわ」と思ったとたん、一緒のツアーの若い男性がブルゾンのボケッとから携帯用の醤油を出し、さあっとその上にかけてしまった。もしこれがうちの弟だったら、
「何するのよ!」
といって、げんこつをくらわせているところだ。私は地元で作られる料理がどういうものか食べてみたかったのに、それをあっという間に日本風味付けに変えてしまったのである。そのうえ食事のだびに、
「やっぱり醤油がなくちゃ」
といいながら、参加者全員に山ほど持ってきたその携帯用の醤油を配るのには閉口した。あるときは、
「ご飯、ご飯」
と、うわごとのようにいいながら、いつも目をつり上げて日本料理店や中国料理店を捜し回っているおじさんがいた。何でも食べる私を見て、彼は、
「よく食べられますね」
とため息まじりにいったのだが、彼らは何が楽しくて旅行しているんだろうか。たとえ地元の食べ物が口に合わなかったとしても、それも楽しみのひとつなのに、いちいち出された料理を日本食と比較して、まずいと文句をいい続ける。そんなに日本食がすきなら外国旅行なんかすると、そういう人たちと遭遇するたびに腹を立ててしまうのだ。