方向オンチ(33)
方向オンチ直し方ってないものかといつも私は悩んでいる。 どこでそうなったか考えてみると、方角に弱いのは小さいころからだった。小学生のときに学校で、東西南北を教わったときに、
「北にむかって、お箸を持つ手のほうが東、お茶碗を持つ手のほうが西です。」といわれた。私はそのときは納得したのだが、家に帰ると頭が混乱した。私の父親は左利きだったので、並んでご飯を食べていると、違う方向にお箸を持っていることになる。私にとって東と、父親にとっての東が違うのである。
「いったいうちでは東西南北はどうなっているんだろう」と、首をかしげたまま、先生にも聞かずにほったらかしておいたので、そらが未だに尾をひいているのではないかと思っているのだ。
たとえば引っ越した直後、最寄りの駅からアパートまでまともに帰れたことがない。最低二度か三度は近所で遭難する。ぐるぐると付近を三十分程度歩いたげく、
「はて、アパートはこんなに遠かったかしら」とやっと迷っていることに気がつく始末なのである。
友だちの間でも私の方向オンチは有名で、一緒に出かけるとなると、今度はなにをやらかすかと楽しみにしているようである。先日も博物館にいって食事をしたあと、つい一時間ほど前に入り口を通ったはずなのに、どういうわけか平気な顔をして厨房に入っていったしまった。そのときもコックさんと目が合って、初めて間違えたことに気づくのだ。私の背後では友人が、無関係な他人というようなそぶりをしつっも、顔を真っ赤にして笑いをこらえている。どこかに遊びにいくときも、ヘタな場所だと迷うので、待ち合わせはいつも駅のホームである。それも絶対迷わない、進行方向の一番前だ。そこにボーット立っていると、とってもむなしくなってくる。友だちは喜ぶけれど、方向オンチの苦しみは、方向オンチにしかわからないのである。