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燃えよ剣57

时间: 2020-05-26    进入日语论坛
核心提示:城 攻 め下野《しもつけ》小山で、歳三は、おかしな偵察報告をきいた。(ほう、人の世にはめぐりあわせということがあるらしい
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城 攻 め

下野《しもつけ》小山で、歳三は、おかしな偵察報告をきいた。
(ほう、人の世にはめぐりあわせということがあるらしいな)
歳三は、宿場の東郊での戦闘をおわったあと、総帥《そうすい》の大鳥圭介のいる本陣をめざし、宿場の中央道路をゆっくりと歩いている。
ここから七里北方の宇都宮城にいる官軍部隊というのは、流山で近藤を捕縛したあの隊だというのだ。
指揮官は薩人有馬藤太、水戸人香川敬三。
このふたりには恨みがある。
兵は三百。
(料理してやるかな)
野戦で堂々と復讐してやろうと思った。
第一、この喧嘩好きな男も、まだ一軍をひきいて城攻めをしたことがない。
小山宿の黒っぽい土を踏みながら、歳三はわきおこってくる昂奮をおさえきれない。
本陣についた。|わら《ヽヽ》じ《ヽ》のままあがりこんだ。
大鳥も、奥の一室でわらじのままあぐらをかいている。
真蒼な顔で、地図に見入っている。歳三が入ったことにも気づかない。
大鳥は、旧幕臣のなかでも西洋通として第一人者であり、軍事学の知識を高く買われていた。
が、それはいずれも翻訳知識で、実戦の能力では未知の男であった。
もとより秀才である。秀才で物識《ものし》りである以上、武将としての能力があると買いかぶられていた。が、実のところは、将才はない。歳三は喧嘩師としてのカンで、それを見ぬいている。
——今後、どうしようか。
と、大鳥は、途方に暮れていた。なるほどいままでの小戦闘では連戦連勝だが、こののち、どうすればよいか。
「大鳥さん」
と、歳三は見おろしていた。
ぎょっと眼をあげた。
「私ですよ」
敵じゃない。
大鳥は、顔を赤くした。が、すぐ歳三の闖入《ちんにゆう》に対し不快な色をうかべた。
「なんの御用です」
と、ことさらにいんぎんに大鳥はいった。
「つぎは宇都宮城を攻めればいい」
と、歳三は大鳥の迷いを見ぬいているかのように断定した。
「宇都宮城?」
ばかな、という顔を大鳥はした。名だたる大城である。西洋兵術でいえば要塞攻撃になる。西洋では要塞攻撃といえば、日本人からみれば過大なと思うほどの準備をしてかかるものだ。
「むりですよ」
憫笑《びんしよう》した。この新選組の親玉になにがわかるか、という肚《はら》である。
歳三にも、この洋学屋の言葉うらの感情がありありとわかる。
が、歳三には、剣電弾雨のなかで鍛えぬいてきたという自負がある。
(戦さには学問は要らない。古来、名将といわれた人物に学問があったか。将の器量才能は学んで得られるものではなく、うまれつきのものだ。おれにはそれがある)
歳三には、大鳥の学問に対して劣等感があるのだが、それだけに自分の能力に対する自負心がつよくなっている。
「むり?」
歳三はいった。
「では、あなたは次はどこを攻めるのです」
「ここを」
と大鳥は地図の上で、ちょうど小山から北西二里半の地点を指で突いた。そこは、
壬生《みぶ》
である。壬生には四方三町ばかりの小さな城塁があり、鳥居丹後守三万石の城下である。すでに少数の官軍が入っている。が、なにぶんの小城だから、ひとひねりにつぶせるはずだ。
「この壬生を通過する。先方から仕かけてくれば戦闘するが、さもなければ一路日光へゆく」
日光へゆく、という最終目標は、すでに軍議できまっているところである。
歳三はそれを良案としていた。日光東照宮を城郭とし、日光山塊の天嶮《てんけん》に拠って北関東に蟠踞《ばんきよ》すれば、官軍も容易に攻められないだろう。そこで官軍を悩ますうち、薩長に不満をもつ天下の諸侯がともに立ちあがるにちがいない。建武の中興における楠木正成の戦略上の役割りを、この軍は果たそうというのである。日光は徳川の千早城になるであろう。
「まあ、壬生はいい。しかし宇都宮城を捨てておいては将来、禍根をのこしますぞ」
「………」
歳三はさらにいった。
「宇都宮は、兵法でいう衢地《くち》である。奥羽街道、日光例幣使街道をはじめ、多くの街道がここに集まり、ここから出ている。他日、官軍が日光を攻める場合、この宇都宮に大兵を容れて兵を出すでしょう。この城は取っておかねばならない」
「貴殿は簡単に申されるが」
大鳥は鉛筆で地図をたたきながら、
「万が一城を奪ったとしてもです。あれだけの城をまもるのには千人の兵が要る。守るときのことを考えると、宇都宮にさわる気がしない」
「とにかく、奪取すればいいのだ。北関東の重鎮が陥落したといえば、いま日和《ひより》見《み》をしている天下の諸侯に与える影響は大きいはずです」
「私はとらない」
「なるほど」
歳三は、苦笑した。こういう答えは、はじめから予想している。
「兵三百に、いま鹵獲《ろかく》した砲二門を借りようか」
と歳三はいった。
「たったそれだけで陥《おと》せる、とおっしゃるのか」
「陥せる」

すでに陽は落ちようとしていたが、歳三は、すぐ出発した。
部下は洋式訓練をあまり経ていない桑名藩兵を先鋒とし、伝習隊、回天隊の一部がこれにつづいた。
副将は、会津藩士秋月登之助である。
夜行軍してその夜は街道の民家に分宿し、翌日は宇都宮城下へ四里、という鬼怒川《きぬがわ》東岸の蓼沼《たでぬま》に宿営して、ここを攻撃準備地とした。
「秋月君、あなたは宇都宮を御存じか」
と歳三はいった。
秋月は会津藩士だけに、かつての新選組副長をひどく尊敬している。
「行ったことがありますが、まさか戸田土佐守七万七千石の城下を攻めるつもりで行ったわけではないから、よく覚えていませんな」
歳三もめずらしく笑い、
「私は講釈の宇都宮釣り天井で知っている程度です」
といった。
歳三は、土地の者を連れて来させて、できるだけ詳細な地図をつくりあげ、城の濠《ほり》、付近の地形、街路を丹念にきいた。
「これァ、城の東南から攻めれば陥《お》ちるな」
と、小さくつぶやいた。
宇都宮城は、大手のほうは濠も深く、櫓《やぐら》からの射角も工夫されていてなかなか堅固だが、歳三の表現では、
「脇っ腹が、なっていない」
のである。城の東南部のことであった。このあたりは雑木林、竹藪が多く、城からの射撃を防ぎやすい。さらにこの方角は堤もひくく、濠の水もからからに干あがっている。
「大手へは、敵の注意をひきつける程度の人数をさしむけ、主力は間道を通ってこの雑木地帯から攻めることにしよう」
翌未明、軍を発した。
馬上、歳三は、
(近藤は、板橋本営につれてゆかれたというが、はたして無事か)
ということが、念頭をはなれない。
とにかく下総流山の敵が、いま下野宇都宮城に拠っているのだ。
撃滅して捕虜を獲《う》ればなんとか消息がわかるだろう。
 城には、薩人有馬藤太、水戸人香川敬三が、諸方から駈けもどってくる騎馬斥候、諜者の報告に、一喜一憂している。
報告はすべて、小山から飯塚に出て壬生城下に進んでいる大鳥圭介指揮の本隊の動静に関するものばかりである。
まさか、西南の蓼沼に歳三らの小部隊が頭を出しはじめているとは気づかない。
「江戸脱走隊」
と、大鳥軍のことをよんでいた。
「おそらく脱走隊は、宇都宮を避け、間道をつたって鹿沼《かぬま》へ出、そこから日光にゆくつもりだろう」
と有馬も香川もみていた。
「そうすれば、だまって行かせるしか仕方がない」
有馬は出戦をあきらめていた。
なにしろ、宇都宮城の官軍といえば、指揮官こそ薩人有馬藤太だが、兵は、薩長土の精鋭ではなく、戦えば負けるという旧式装備の彦根藩兵三百である。
この有馬隊は、ほんの支隊なのだ。かれらの本隊である官軍東山道部隊は、板橋を本営としてまだ動いていない。
「脱走隊の隊長は、大鳥圭介らしい」
といううわさは、耳に入っている。幕軍きっての洋式陸軍の権威で、その脱走兵のほとんどは、洋式歩兵だというのだ。有馬があずかっている彦根藩兵では勝てるはずがない。
「時代がかわったものだ」
と、有馬藤太はいった。
彦根の井伊家といえば、家康のころは、
井伊の赤備《あかぞな》え
といって天下に精強をうたわれたものである。家康の徳川軍団は、関ケ原以後譜代筆頭の井伊と外様の藤堂をもって先鋒とする、というたてまえになっており、大坂冬、夏ノ陣では、この両軍が、事実上、先鋒の錐《きり》の役目をしたものである。
家康は、井伊家を最強兵団にすることにつとめ、甲斐の武田家の牢人を多く召しかかえて井伊家につけた。武田の赤備えが、そのまま井伊の赤備えになったわけである。
しかし、刀槍の時代はすぎた。
彦根藩はいまや、諸藩でも最弱といっていい部隊になっている。
「旧幕府ではなんといっても、いま大鳥がひきいている町人百姓あがりの歩兵と、伝習隊、衝鋒隊《しようほうたい》がもっとも強いだろう」
「強弱だけではないさ、時代のかわりは。——」
香川はちょっと首をすくめ、
「徳川譜代筆頭にいわれた彦根が徳川家をすて、官軍になって旧幕軍と戦おうとしている」
といった。香川はどういうわけか、彦根人に好意をもっていなかった。
薩人の有馬は、香川のそういう口さがない性格がきらいだった。
そういう理屈でゆけば、香川は徳川御三家の一つ水戸家の家中だった男ではないか。
 一方、本隊をひきいる大鳥のもとに、壬生藩から使者がきて、
——当城に官軍の人数が入っております。もし城下をご通過になれば戦いは必至、われわれ徳川譜代の家としては板ばさみになり去就に迷います。それに城下が戦場になっては庶人が迷惑しますので、日光にむかわれるならば、栃木《とちぎ》をお通りくださいませんか。道案内をつけます。
と口上をのべたので、それに従い、栃木へ迂回し、悪路を北上して鹿沼へむかった。栃木から鹿沼へは五里半、鹿沼から日光へは六里余である。
宇都宮城では、この大鳥部隊の行動をみて、
「さては当城を避けたか」
と、香川は手を拍《う》たんばかりにしてよろこんだ。
それが、四月十九日である。
ところがその日の午後、にわかに城の東南に砲車を曳いた軽兵三百があらわれて、有馬、香川を狼狽させた。
有馬はすぐ、城の東方に彦根兵一小隊を出した。
 歳三は、その奇襲兵の先頭にあった。
城東の野に彦根兵が現われるや、すぐ兵を散開させて射撃しつつ躍進させた。
歳三は、平然と馬上にいる。その馬側に、「東照大権現」と大書した隊旗がはためいていた。
「おりさっしゃい、おりさっしゃい」
と秋月が、田のあぜに身をひそめながらさかんに声をかけた。
「………」
と歳三は、微笑してかぶりをふった。自分には弾があたらぬ、という信仰がある。
事実、弾は歳三をよけて飛んでいるようであった。
兵は、遮蔽物《しやへいぶつ》から遮蔽物へ走っては射ち、走っては射ちして、近づいてゆく。
彼我《ひが》、五十間の距離になった。
歳三は馬上、
「射撃、やめろ。駈けろ」
とどなった。どっと桑名兵、伝習、回天の諸隊が駈けだした。
歳三はその先頭を駈けたが、途中、馬が鼻づらを射ぬかれて転倒した。
と同時にとびおり、退却しようとする彦根兵のなかに駈け入った。
斬った。
斬りまくったといっていい。そのうち味方がどっと駈けこんできた。
敵は逃げた。
追尾しつつ、城の東南の雑木、竹の密生地に入り、そこへ砲を据えさせ、城の東門にむかって砲撃させた。
「門扉《もんぴ》を砕くんだ」
と、歳三はいった。
三発射った。その三発目が、東門に命中し、戸をくだいて炸裂した。
その間、桑名兵の一部を走らせて城下の各所に放火させ、さらに伝習隊には大手門の正面から射撃させ、自分は主力をひきいて、空濠《からぼり》にとびおり、弾丸の下を一気にかけて、東門の前にとりついた。
ちなみに宇都宮城は、徳川初期の有名な宇都宮騒動のために幕府に遠慮し、郭内には建物らしい建物はない。
つまるところ、門の守りさえ破れば、郭内での戦闘は容易であった。
「門に突っ込め、突っこめ」
と歳三は怒号した。
門わきには彦根兵がむらがり、旧式のゲベール銃を射撃してくる。
こちらはミニエー銃で射ち返しつつ、迫った。
ついに、敵味方十歩の距離となり、数分間そのままの距離で双方はげしく射撃しあった。
歳三は、業《ごう》をにやした。
新選組華やかなりしころなら、このくらいの距離にまできて、たがいに距離を大事にしあっているということはなかった。
歳三のそばに、かつての新選組副長助勤斎藤一ほか六人の旧同志がいる。
「鉄砲、やめろ、鉄砲を——」
と味方をどなりつけて射撃をやめさせ、
「新選組、進めっ」
わめいて、門内へ突っこんだ。
斎藤一、歳三のそばをするすると駈けぬけるや、槍をふるって出てきた彦根兵の手もとにつけ入り、上段から真二つに斬り下げた。
わっと、血煙りが立ったときは、歳三の和泉守兼定が弧をえがいてその背後からとび出した一人を脳天から斬りさげていた。
——新選組がいる!
彦根兵は、戦慄した。
どっと門内に逃げこんだ。
そのとき、背後の疎林から射撃している歳三の砲兵の一弾が、城内の火薬庫に命中した。
わずかに火災がおこった。やがて大音響とともに爆発した。
歳三らは、城内を駈けまわった。
「官軍参謀をさがすんだ、参謀を」
歳三は、全身に返り血をあびながらさけんだ。かれらをとらえて流山の仇を討つ。近藤の安否を調べる、——この城攻めは、歳三にとってその二つの目的しかない。
歳三は、郭内をさがしまわった。ときどき逃れ遅れた城兵がとびだしてきて打ちかかってきたが、そのつど無惨な結果におわった。
相手は、この洋式|戎服《じゆうふく》の男が、まさかかつての新選組副長土方歳三とは知らない。
郭内での戦闘は、日没におよんでもやまなかった。
敵も執拗に戦った。
歳三は、左手に松明、右手に大剣をかざして、敵を求めた。
夜八時すぎ、敵は自軍の死体を遺して郭内から北へ退却し、城北の明神山にある寺に集結しようとした。
敵の退却がはじまったときに歳三は、新選組旧同志を率いて、退却兵の松明の群れのなかにまっしぐらに駈け入った。
退却兵のなかから、二、三十発の銃声がはじけ、弾が夜気をきって飛んできた。
なお突進した。
そのとき、すさまじい気合が、歳三の鼻さきでおこった。
避けた。
斬りおろした。
たしかに手ごたえがあった。が、敵の影は斃れず、そのまま敗走兵のなかにまぎれ入った。
それが、有馬藤太だったらしい。
歳三の剣は、有馬の胸筋を斬り裂いたようである。
が、かすった。有馬は一命をとりとめ、担送されて横浜の病院で加療し、のち回復した。
 大鳥はその翌日、宇都宮の西方三里の鹿沼まで進出して、はるかに城にあがる火煙をみて、落城を知った。
(あの男が。——)
ひそかに舌をまいた。
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