これまで、有給休暇は従業員が休みたい時期と日数を指定する仕組みだったが、今回の改正で、企業には、管理職を含む全正社員に少なくとも年5日分の有給を取らせることが義務付けられる。企業は、有給消化を促すため、取得の「時期」を指定する法的義務を負うことになる。違反した場合には罰則がある。
5日間の有給休暇の「時期指定」義務化で、労働環境はどう変わることが予想されるのか。谷口真理弁護士に聞いた。
●有給休暇をまったく取れなかった職場には朗報
「労働者は、職場の雰囲気が気になるといった理由で有給の取得を躊躇しがちです。厚労省の調査では、2013年度の有給休暇の平均付与日数は18.5日でした。ところが、実際に社員が取得したのは平均9日で、平均取得率は48.8%にとどまっています。
今回の法改正によって、従来ほとんど有休を取得できなかった職場の場合、労働者が会社の指定する年5日の有給を取得すれば、取得率は必然的に向上するでしょう。企業が、社員に対して有給の時期を指定してくれば、その範囲の中では労働者は、心置きなく休むことができるからです」
たしかに、年に5日すら有休を取れなかった人は、休みやすくなるだろう。では、今まで5日以上休んでいた人は、どうなるだろうか。
「取得率の向上を図るという意味では、もともと平均の9日程度の有給取得ができていた職場には、それほど良い影響はないように思います。すでに、5日以上休めているからです。
むしろ、今までは自由な時期に有給休暇を取得できたのに、今後、5日間については、原則として企業が指定した時期に限定されるという意味で、不利益になる可能性もあります。
また、今までの日数以上に有給を取得しようとしても、やはり周りの雰囲気を気にして、ためらってしまうという問題も残っています」
では、労働者が有給をもっと自由に取得できるようにするには、何が必要だろうか。
「取得率改善のためには、単に義務化するだけでは足りません。労働者が休んでも業務が滞らないよう、企業が業務分担や情報共有などの環境を整備して、労働者が遠慮なく休めるようにしなければならないでしょう。
とはいえ、5日間の義務化も意味がないわけではありません。取得率改善に一定の効果が出るよう期待したいものです」
谷口弁護士はこのように話していた。ヨーロッパのように「有給休暇の完全取得が当たり前」という社会が実現してほしいものだ。