在任中の安倍晋三首相が続けると言っている中で行われる党首選は、与党が自ら首相を引きずり降ろす機会ともなり得る。そういう点では、安倍政権を続けるかどうかが最大の争点だ。
対抗馬には政権を倒すという気概が必要だが、石破茂元幹事長は出ることが目的化しているようなところがある。安倍政権のどこが悪いかを正面からぶつけなければいけないが、政権を否定する根本的なことをあまり強く言っていないのは不思議だ。
―憲法改正論議をどう見るか。
改憲には各党の合意が必要だから、総裁選で決着すべき問題ではない。あまり具体的な議論をすると、勝った候補の意見が「賛成を得た」となり、政権に対する評価と改憲が重なってしまうことになりかねない。確認すべきことは、改憲の中身よりも進め方ではないか。
―他のテーマの論戦はどうか。
政策面では、それぞれの意見を聞いても違いが浮かび出てこない。一番議論すべきは政治の進め方ではないか。議論して決めるのが政治の仕事だが、安倍政権は議論せずに決める。ものの決め方や議論の仕方に関する主張が具体化してくると面白くなる。
もう一つは、安倍政権の体質として身内びいきが目立つことだ。森友・加計学園の問題は、その現れに過ぎず、むしろ首相の政治姿勢一般が問われている。石破氏は「正直、公正」と言いながら、争点にできていない。自民党の将来のために、疑問に正面から答える議論をしなければ盛り上がらない。
―盛り上がらない他の理由は。
事前の予想で、首相が国会議員票の大半を取り、(勝敗ではなく)政権への不満がどのくらいかを測る総裁選になってしまった。石破氏の支持が広がらない理由ははっきりしている。どういう政権運営をするのかがよく分からないからだ。
―長期政権の利点と弊害は。
利点は、長期的な視野で国民に厳しい政策ができることと、外交上のメリットがあることだ。弊害は、空気がよどみ、腐敗が起こりやすくなる。安倍政権は国民と対話し、党内の議論を固めるということをしていない。総裁選では党の体質改善に役立つ議論、耳の痛い話も堂々と議論すべきだ。党の若手が国会改革に取り組んでいるのだから、両候補に突き付けることがあってもよかった。
―今後の自民党の課題は。
自民党の政治家は、仕事を首相官邸に丸投げしている。政党として国民とどう付き合っていくのかが問われている。政治家は民意を集約し、有権者を説得できる力を付けないと、「ポピュリスト政党」に負けてしまうというのが他国での例だ。国民の不満をためていけば、一気に政権の座から滑り落ちる可能性もある。