しかし、開いている木戸から中を覗くとだーれもいない。病気の人たちで賑わっているかと思ったのに。待ち時間に読もうと思って吉川英治の三国志を持ってきたのに。
あっ、誰か来た。
「わしがドクターじゃよ。よく来たなジャパニーズ。入りなさい入りなさい」
「ハロードクター。やはりわかりましたか日本人だと。このしょうゆ顔を見て」
「いろんなものを見せてあげるから。こっちに来なさい」
「それではお言葉に甘えましておじゃましまーす」
奥の部屋から出て来た、白衣を着て白いヒゲをたくわえたよぼよぼのおじいさん。彼こそが英語ペラペラで大変助かる噂の神医、スーパードクターであった。
いきなり部屋を通り抜けて裏庭に連れて行かれると、そこでドクターはガラスケースからたくさんの紙の束、そしてノートを取り出しオレの前に並べた。
「ほら、お茶を飲みなさい。お茶を飲みながら、これらをよく読みなさい」
「おもてなし有難うございます。お茶いただきます。これら読ませていただきます」
その紙々はいったい何かと思ったら、日本語で書かれたドクターの記事、そして大企業から中小企業そして弁護士から教授まで、代表取締役社長やら専務やら常務やら立派な肩書の人々の名刺。さらにここを訪れた日本人が書いた、インドのインチキリキシャドライバーなどがよく持っている日本語の推薦文、「ドクター最高!」「彼はとてもいい人です!」などが書かれた推薦コメント用ノートであった。