バスターミナルのすぐ隣にあった「なんとか茶楼」という宿を訪ねてみると、シャワートイレはいつもの共同だがベッドが二つ並ぶ客室は全然キレイであった。じゃあまずはここで2人ずつ部屋を取ろうか、そうしようか、という雰囲気になったのだが、なんと紅一点のユダヤ人女性レウトさんが、ここはイヤだと言う。……あの、恐れ入りますがあなたの辞書に協調性という文字はないんでしょうか。
いかなる訳でここがイヤですかと尋ねると、彼女は和式便器では用が足せないらしい。洋式便器のついているホテルでないと泊まれないと言うのだ。
……キミたちねえ、中国を旅行先に選んだこと自体が間違いなんだよ。それなら、イスラエルの隣のトルコとかヨーロッパにバカンスに行けばいいじゃん。なんではるばるもんのすご~い遠い中国まで来て洋式便器や禁煙バスを探してるわけ??
紅一点のわがまま娘レウト嬢と、その彼氏のチリチリあたまのガディくんは荷物を置いて別の宿を探しに行った。オレともう一人、唯一まともそうなメガネのユダヤ人·エヤルさんは居残りだ。
よし、この隙に宿のおじいさんにバスのことを聞いてみよう。
「お尋ねしたいんですがおじいさん。明日僕たち汽車(チーチョー=バス)で理塘まで行きたいんですが、票(ピャオ)はどこで買えばいいんですか? 明日の朝買えばいいんですか?」
「リタン? ニーメンプーノンチュイリータン! トチューノータオラクシーゴロゴロ!!」
「そうですかそうですか。ありがとうございます。シェーシェー」
「……お、おい、おまえちゃんと中国語喋れているじゃないか。すごいな。そのオールドマンはなんて言ってたんだ??」
「全然わからんかった(涙)」
「なんじゃそりゃっっ!!!!」
「聞き取りは出来ないの(涙)。僕に出来るのはただ簡単なことを一方的に伝えるだけ。僕の存在なんて安い電報みたいなものなんです(号泣)。で、でも、今おじいさんは何か落石がゴロゴロとかそんなジェスチャーをしてたような……
「それはオレもわかった。転がってたよなじいさんの前でなにか巨大なものが」
…………。
なんだってえええ~~っ!!! 落石で道が崩壊してバスがぺちゃんこで人が大勢死んで村が滅びたって~~~~っっっ!!!! ……なんてことは全然言ってないけど、本当に落石だろうか。これは次回の展開が待たれるところだ。