や、やばい……。モップが、オレのバックパックに迫っている。き、汚い。やめてくれっ! モップの毛を1本でもオレの荷物に触れさせないでくれっ(号泣)!!! その辺は掃除しないでいいからっっ!!! やめてっ!! 近寄らないでっっ(涙)!!!!
……幸い、どうやら乗務員もそんなに丁寧に拭き切るつもりは無いらしく、荷物の周辺の床は少しスペースを残してアバウトに擦っており、バックパックと汚モップとの間には常に一定のスペースがあった。良かった……。荷物が汚物と一体化しないで良かった……(涙)。
ったのもつかの間。乗務員は、おもむろにオレのバックパックを持ち上げ、その下の床を一生懸命汚モップでナメナメ~っと汚すと、そこに、完全なるブレンド超汚床と化したその地面に、そのまま再びバックパックを置いた。
ブクブクブクブクブクブクブクブク……(泡吹いて気絶) オレの、オレのバックパックが……ああ……
「おーい、そこのにいちゃん! 泡吹いてるにいちゃん!」
「はっ。誰か……誰かが僕を呼んでいる。僕を気にかけてくれる人がいるのだろうか。この欲望渦巻く中国の火車で……」
「一人降りたぞ! この席空いたから、座れよ!」
「ぐおおおおおおおおお(号泣)。こんな僕のために、こんな口下手で頼りない僕のためにすみません~~~~(号泣)」
空席が出来た座席のおじさんが、わざわざオレを呼んでくれた……。今にも泡を吹きながらヘロヘロと汚床に崩れ落ち、そのまま汚モップでゴミと一緒に掃かれて最後には電車のドアからドバーッと捨てられそうになっていたオレを、一人の中国人のおじさんが救ってくれた……。ありがとうございます(涙)。あなたは、日中友好の懸け橋です(号泣)。そして僕はその橋を渡る天使(エンジェル)……。
深く頭を下げ頭頂部を床の汚物にすりつけながら礼を言い椅子に座ると、硬座とはいえ今まで連結部で立ち尽くし膝をわななかせていた身にとってはなんのその。さすがにオレは眠りに着いた。そして目が覚めた時には、もはや夢の成都はオレの眼前20kmに迫っているのであった。