あるとき山幸彦は兄の海幸彦に言いました。
「それぞれの道具を取り替えっこしようよ」
山幸彦は三度お願いしたものの、海幸彦はOKを出しません。
それでもなんとか聞き入れられて、道具を取り替えることができました。
山幸彦は海幸彦の道具を使って魚釣りをしましたが、一匹も釣れません。おまけに釣り針を海の中で失くしてしまいました。
海幸彦は、
「やっぱり山の獣は山幸彦が自分の道具で獲った方が上手くいくし、海の魚も自分が自分の道具で獲った方がたくさん獲れるじゃないか。道具をそれぞれ元の持ち主に返そう」
と言いましたが、山幸彦が、
「兄さんの釣り針を使ってみたけれど、一匹も釣れなかったし、釣り針失くしちゃった…」
と答えたので、海幸彦はカンカン。釣り針を返せと強く迫ったのです。
そこで山幸彦は腰につけていた長い剣を壊して五百個もの釣り針を作りましたが、海幸彦は受け取りませんでした。今度は千個の釣り針を作りましたが、やはり受け取ってもらえず、
「あの釣り針じゃないとダメだ」
と拒んだのでした。