プリベット通り四番地の住人ダーズリー夫妻(ふさい)は、「おかげさまで、私どもはどこから見てもまともな人間です」というのが自じ慢まんだった。不思議(ふしぎ)とか神秘(しんぴ)とかそんな非常識(ひじょうしき)はまるっきり認めない人じん種しゅで、まか不思議な出で来き事ごとが彼らの周辺しゅうへんで起こるなんて、とうてい考えられなかった。
ダーズリー氏は、穴あけドリルを製せい造ぞうしているグラニングズ社の社長だ。ずんぐりと肉づきがよい体型のせいで、首がほとんどない。そのかわり巨大な口くち髭ひげが目立っていた。奥さんの方はやせて、金きん髪ぱつで、なんと首の長さが普通の人の二倍はある。垣かき根ね越ごしにご近所の様子を詮せん索さくするのが趣しゅ味みだったので、鶴つるのような首は実に便利だった。ダーズリー夫妻にはダドリーという男の子がいた。どこを探したってこんなにできのいい子はいやしない、というのが二人の親バカの意見だった。
そんな絵に描かいたように満ち足りたダーズリー家にも、たった一つ秘ひ密みつがあった。なにより怖こわいのは、誰かにその秘密を嗅かぎつけられることだった。
――あのポッター一家のことが誰かに知られてしまったら一いっ巻かんの終わりだ。
ポッター夫人はダーズリー夫人の実の妹だが、二人はここ数年一度も会ってはいなかった。それどころか、ダーズリー夫人は妹などいないというふりをしていた。なにしろ、妹もそのろくでなしの夫も、ダーズリー家の家か風ふうとはまるっきり正反対だったからだ。
――ポッター一家が不ふ意いにこのあたりに現れたら、ご近所の人たちがなんと言うか、考えただけでも身の毛がよだつ。
ポッター家にも小さな男の子がいることを、ダーズリー夫妻は知ってはいたが、ただの一度も会ったことがない。
――そんな子と、うちのダドリーがかかわり合いになるなんて……。
それもポッター一家を遠ざけている理由の一つだった。