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第二部 第十二章 暗黒の季節(3)

时间: 2024-01-18    进入日语论坛
核心提示: ふたりの客人は黙して語らなかったが、スキャンランとマクマードは、彼らのいう「お遊び」の現場だけはぜひとも見ておきたいも
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 ふたりの客人は黙して語らなかったが、スキャンランとマクマードは、彼らのいう「お

遊び」の現場だけはぜひとも見ておきたいものだと思った。それである朝早く、マクマー

ドはふたりの客が階段をそっと降りていく気配に気づくと、スキャンランを揺り起こし、

ふたりは急いで服を身につけにかかった。服を着おわって階下 した に降りてみると、客たち

は出ていったあとで、玄関のドアはあいたままになっていた。まだ夜は明けておらず、通

りの先のほうを行くふたりの客の姿が街燈の光に照らしだされていた。そこでマクマード

たちは、深い雪の上を足音をたてないように踏みしめながら、用心ぶかくふたりのあとを

追った。

 下宿は町はずれに近く、先のふたりはすぐに町の外の十字路に達した。そこには三人の

男たちが待っていて、ローラーとアンドルーズのふたりはその男たちとちょっとの間何や

ら真剣に立ち話をしていた。やがて五人はいっしょに歩きはじめた。人手を要する大仕事

らしい。この十字路からは細い道が何本か伸びていて、あちこちの鉱山に通じていた。男

たちはクロウ・ヒル鉱山へ通じる道を進んだ。この鉱山は、ジョサイア・H・ダンという

ニューイングランド生まれの大胆で気力あふれる男がしっかりと経営しているおかげで、

いつおわるともしれない恐怖時代のさ中にあっても秩序と規律を維持してこられた大会社

だった。

 しだいに夜が明けはじめ、労働者たちがぞろぞろとどす黒い地面の上を歩いていく。

 マクマードとスキャンランは労働者たちにまじって、五人の男たちを見失わないように

歩きつづけた。あたりは濃い霧に包まれ、その霧の中から突然汽笛がきこえてきた。朝一

番の昇降機が降りる十分前の合図だった。

 堅坑をとりまく広場にたどりつくと、百人あまりの坑夫たちが、冷えこみがきびしいの

で、足踏みをしたり手に息を吐きかけたりしながら待っていた。五人の男たちは機関室の

かげに小さくかたまって立っていた。スキャンランとマクマードはぼた ヽヽ 山に登ってみ

た。するとあたりがすっかり見わたせた。メンジスという名の、あごひげをはやしたス

コットランド生まれの大男の鉱山技師が、機関室から出てきて昇降機を降ろさせる合図の

笛を吹くのが見えた。すると同時に、ひげをそりあげ、まじめそうな顔をした、背の高い

しまりのないからだつきの男が、せかせかと坑口のほうへ歩みよった。途中でふと、機関

室のかげに寄りそうようにして黙ってじっとつっ立っている男たちの姿が目にはいった。

みんなそろって帽子を目深 まぶか にかぶり、コートのえりを立てて顔を隠すようにしている。

一瞬、この若い経営者の心臓は死の予感に凍りついた。だがすぐにそれをはらいのける

と、ただ務めをはたすべく、不審な男たちのほうへ歩み寄った。

「おまえたちは何者だ? そんなところで何をしているんだ?」

 答えはなかった。するといきなり若いアンドルーズが歩みでて、彼の鳩尾 みずおち に一発撃ち

こんだ。仕事の始まるのを待っていた百人あまりの坑夫たちは、からだが麻痺してしまっ

たかのように、呆然としてつっ立っていた。経営者は両手で傷口をおさえ、からだを折り

まげた。そしてよろめきながら逃げだそうとしたが、そこへ殺し屋たちの中からもう一人

がさらに一発浴びせたので、彼は鉱滓の山の上へ横ざまに倒れ、もがき苦しんだ。スコッ

トランド生まれのメンジスはこれを見て、怒り狂ったような叫び声をあげ、鉄のスパナを

つかんで殺し屋たちめがけてつきすすんでいったが、顔面に二発くらって、連中の足下に

ばったり倒れ、それっきり息が絶えてしまった。坑夫たちの一部は殺し屋たちのほうへじ

わじわとつめ寄り、同情と怒りの入り混じったわけのわからない叫び声あげたが、殺し屋

たちの中の二人が坑夫たちの頭上へ六連発銃をつづけざまに撃つと、彼らはくもの子を散

らすように逃げていき、なかにはヴァーミッサのわが家めざして一目散に駆けていく者も

あった。少数のとりわけ勇敢な連中が、再び勇気をふるい起こし、坑夫たちの先頭に立っ

て坑口にひき返してみると、殺し屋たちはすでに朝もやの中へ姿を消したあとで、百人も

の人間の目の前で人をたてつづけに二人も殺した男たちの人相をはっきり証言できる者

は、結局一人もいなかったのである。

 スキャンランとマクマードは帰途についたが、スキャンランはなんとなく元気がなかっ

た。というのも、自分の目で殺人の現場を見たのはこれが初めてだったからでもあり、ま

た、話にきいていたほど面白いものでもなかったからである。殺された経営者の妻のもの

すごい悲鳴が、町へ急ぐふたりの耳にこびりついて離れなかった。マクマードは黙りこ

くったまま、何かを考えこんでいる様子だったが、相棒の意気消沈したさまにはなんの同

情も示さなかった。

「そうさ、戦争のようなもんだよ」彼は繰り返しいった。「おれたちとあいつらとの戦争

さ。それだけのことだよ。ここぞというところをねらって攻めこむのさ」

 その夜、ユニオン・ハウスの支部の部屋では盛大な酒宴が催された。それは、クロウ・

ヒル鉱山の経営者と技師を殺したことによって、この会社を、脅迫をうけ恐怖におびえて

いるこの土地のほかの会社と同じ立場に追いこんだことのためだけでなく、遠く離れた土

地において支部自らの手で勝ちとられた勝利を祝うためでもあった。郡委員長は、ヴァー

ミッサの鉱山に一撃を加えんがため五人の腕利きの部下を送りこんできたとき、その返礼

として、ギルマトン地区では知名度の点でも人気の点でも一、二を争う鉱山主、ステイ

ク・ロイヤル鉱山のウィリアム・へイルズを殺すため、ヴァーミッサのほうからも三名の

選り抜きを秘かによこしてもらいたい、と要求してきていたらしい。このヘイルズという

男はあらゆる点で模範的な経営者で、この世に彼を憎む者は一人もおるまいと世間では信

じられていた。それでも仕事の能率ということに関しては口うるさくいう性質 たち だったの

で、飲んだくれや怠け者の連中を解雇したところ、それが恐るべき「自由民団」の男たち

だったのである。彼は家の玄関さきに棺おけの絵を貼られたが、それでも決心をひるがえ

さなかった。その結果、この自由な文明国に住んでいながら、殺される運命となったので

ある。

 処刑は滞りなく実行された。支部長のそばの名誉の席にふんぞりかえっているテッド・

ボールドウィンが、そのときの首領だった。まっ赤な顔をして、どんよりした目を血走ら

せているのは、そのための睡眠不足と飲酒を物語っている。彼は二名の仲間を率いて前夜

を山中で過ごしたのである。そのせいで三名とも髪はぼさぼさで、服もひどく汚れてい

た。だがいかに決死隊とはいえ、無事帰還した英雄でこれほど仲間からあたたかい歓迎を

うけたものはかつてなかったといってよい。彼らの話は何度も繰り返され、そのたびごと

に歓声と笑い声がわき起こった。彼らは、相手の男が日が暮れてから馬車で帰宅する途中

を襲うため、馬がいやでも速力をゆるめざるえない険しい坂の頂で待ち伏せた。男は防寒

のため毛皮を着こんでいたので、ピストルに手をやることすらできなかった。彼らは男を

馬車から引きずりおろし、銃弾を何発も浴びせかけたのである。

 連中の誰ひとりとしてその男を知らなかったが、人殺しには永遠の劇があるし、これで

ギルマトンのスコウラーズに、ヴァーミッサ支部がたのむにたることを示したことにな

る。ただひとつだけ、思いがけないやっかいな事が起こった。もはや石のようになった男

の死体になおもピストルの弾丸を撃ちこんでいると、たまたま一組の夫婦づれが馬車で通

りかかったのである。ついでにふたりとも撃ち殺してしまえといいだす者もあったが、鉱

山とは無縁の害のなさそうな人間たちだったので、他人にばらすとひどい目にあうぞとさ

んざんおどしたすえ、そのまま通してやったのである。そして、血まみれの死体を、男と

同じように冷淡な他の雇い主たちへの見せしめとしてその場に置き去りにして、三人の気

高き復讐者は山の中へと急いで姿を消した。その未だ汚れを知らぬ大自然の山をずっと

下っていくと、溶鉱炉やぼた山の群れにぶつかるのだった。

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