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第二部 第十三章 危機(2)

时间: 2024-01-18    进入日语论坛
核心提示: マクマードは両手でたよりなげに手紙をつかんだまま、しばらくじっと黙っていた。ふと霧がはれたかと思うと、目の前には深淵が
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 マクマードは両手でたよりなげに手紙をつかんだまま、しばらくじっと黙っていた。ふ

と霧がはれたかと思うと、目の前には深淵が口をあけて待っていたのだった。

「ほかにこのことを知っている者はいるのかい?」彼はたずねた。

「誰にもしゃべらないよ」

「でもこの男が――あんたの友人のことだが――手紙を出しそうな相手はほかには?」

「そうだな、一人や二人はいるだろうな」

「ここの支部にか?」

「ありうるね」

「このバーディ・エドワーズとかいう野郎の人相についてでも何か知らせてきていやしな

いかなと思って、きいてみたまでなんだが。人相さえわかれば、こっちのもんだからな」

「そりゃそうだけど、でもこの友人もエドワーズのことは知らないんじゃないかな。仕事

の上でたまたまわかったことを知らせてきてくれただけなんだから。こんなピンカートン

の男なんかを知っているわけがないだろう?」

 マクマードは突然、とびあがらんばかりにはっとして、叫んだ。

「あ、そうか! あいつのことか。いままで気がつかなかったなんて、おれもどうかして

いるよ! でもありがたい、おれたちはついてるぜ! やつが何かしでかすまえに、こっ

ちが先に始末してやる。なあ、モリス、この件はおれにまかせてくれないか?」

「そりゃいいけど、でも私を巻きこんだりしないでくれよ」

「そんなことはしない。おれがうまくやるから、あんたは引っこんでりゃいいさ。あんた

の名をだすことすらしないよ。この手紙もおれのところへきたことにして、万事おれがひ

きうけてやる。それならいいだろう?」

「望むところだよ」

「じゃ、そういうことにして、あんたは黙ってろ。さて、おれはこれから支部へ行くが、

いまにみてろ、このピンカートン野郎をくやしがらせてやるから」

「殺すつもりじゃないだろうな?」

「モリスさんよ。そんなことはなるべく知らずにいたほうが、良心も休まるし、それだけ

安眠もできるってもんだぜ。何もきかずになりゆきにまかせるがいいさ。おれにまかしと

けって」

 モリスは帰りじたくをしながら、悲しげに頭を振って、うめくようにつぶやいた。

「なんとなく私が殺すような気がするよ」

「いずれにせよ。自己防衛は人殺しじゃないさ」マクマードが残忍な微笑をうかべていっ

た。「やるかやられるかだ。やつをいつまでもこの谷に放っておいたら、おれたちはひと

り残らずやられてしまうぜ。だがなあ、モリス、いまにあんたを支部長に選挙してやらね

ばならんな。なにしろ支部の救い主なんだからな」

 しかしながら、マクマードが口でいってる以上に深刻にこの新たな外敵の侵入をうけと

めていることは、彼の行動からも明らかだった。それは良心のやましさのなせるわざなの

か、それとも相手がうわさにきくピンカートン機関だからなのか、あるいはまた富める大

企業がスコウラーズ一掃に乗りだしてきたことを知るに及んでのことなのか、理由はいず

れにせよ、彼の行動はどうみても最悪の事態に備えんとする者のそれであった。下宿を出

るまえに、彼はまず証拠となるような書類をすべて焼きすてた。それがすむと、ひとまず

これで一安心とほっとして、長いため息をついた。だが、それでもまだ不安をぬぐいきれ

ないとみえて、支部へ行く途中でシャフター老人の家へたち寄った。出入りは禁じられて

いたのだが、かまわず窓をたたいてみると、エティが出てきた。彼女の恋人の目には、ア

イルランド生まれを物語る、いつものきびきびしたいたずらっぽさがなくなっていた。彼

女はマクマードの真剣な顔つきをみて、危険がさし迫っていることを読みとった。

「何かあったのね! ああ、ジャック、あなたの身が危ないのでしょう!」

「いやなに、たいしたことじゃないさ、エティ。でもまあ、ひどいことにならないうちに

立ちのいたほうがいいかもしれないね」

「立ちのくですって!」

「いつかはよそへ移るって、おまえに約束しておいたはずだよ。どうやらその時がきたら

しい。今夜ある情報がはいったんだ――悪い知らせだ。やっかいなことがもちあがりそう

なんだ」

「警察?」

「なに、ピンカートンさ。といってもおまえには何のことやらさっぱりわかるまい。まし

ておれのような人間に何を意味するかなんてことはね。とにかくおれは少し深入りしすぎ

たようだ。だからこうなりゃ一刻も早く足を洗ったほうがいいのかもしれん。おまえは、

おれが逃げるときは、いっしょについてくるといったね?」

「ああ、ジャック、それがあなたの救われる道なんですもの」

「エティ、おれだってそうでたらめな男じゃない。たとえどんなことがあっても、おまえ

のその美しい髪の毛を一本だって傷つけさせやしないし、いつもおれが仰ぎみているその

雲の上の黄金の玉座からおまえを引きずりおろすようなことは、ぜったいしないつもり

だ。おれを信じてくれるかい?」

 彼女は何もいわずに自分の手を彼の手に重ねあわせた。

「よし、じゃ、おれがこれからいうことをよくきいて、そのとおりにしてくれ。とにかく

おれたちにはこれしか道はないんだからね。じつは、この谷で一波乱起こりそうなんだ。

たぶんまちがいない。そうなると、わが身を心配しなくちゃならなくなる者が、おれたち

の中にはたくさんいる。いずれにせよ、おれはその一人だ。おれが逃げだすときは、昼で

も夜中でも、おまえはいっしょについてくるんだ!」

「ジャック、私あとからいくわ」

「いや、だめだ、いっしょに ヽヽヽヽヽ くるんだ。この谷からしめだされたら、おれは二度と

帰ってこられないかもしれないっていうのに、どうしておまえひとりをあとに残していけ

る? たぶんおれは警察の目をくらましていなきゃならなくなるから、手紙をかわすなん

てこともできないんだぜ。いっしょにこなきゃだめだ。おれのもといたところに親切なお

ばさんがいるから、結婚できるようになるまで、おまえをあずかってもらうつもりだ。

いっしょにくるね?」

「いいわ、ジャック、ついていくわ」

「おれを信じてくれてうれしいよ。おまえのその信頼を裏切るような卑劣なまねはぜった

いにしないって誓うよ。さあ、いいか、エティ、おれからの連絡はたった一言だ。それが

とどいたら、何もかもほうり出して大急ぎで停車場の待合室へいき、おれがいくまで待っ

てるんだ」

「昼でも夜中でも、知らせをきいたらすぐにいくわ。ジャック」

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