そうして、乙女は小さな家にたった一人で住み、よく働き、糸を紡ぎ、布を織り、縫物をしました。やさしいおばあさんの祝福が娘のする何にでもありました。部屋の亜麻はひとりでに増えるように思われ、娘が布や絨毯を織るとかシャツを作ったときはいつも、すぐに買い手が見つかり、たっぷりお金を払ったので、何一つ不自由することはなく、他の人たちに分け与えることさえできました。このころ、王様の息子が花嫁を探して国じゅうを旅していました。王子は貧しい人を選んではいけなくて、裕福な人は妻にしたくありませんでした。それで王子は、「一番貧しくて、同時に一番裕福な人を妻にするつもりだ」と言いました。
王子は乙女が住んでいる村にくると、どこへ行ってもやっているように、「ここで一番裕福でしかも一番貧しい娘は誰ですか?」と尋ねました。人々は最初一番金持ちの娘の名をあげました。「一番貧しいのは」と人々は言いました。「村のはずれにある小さな家に住む娘です。」と言いました。金持ちの娘は家の戸口の前に素晴らしく着飾って座っていました。王子が娘に近づいていくと、娘は立ち上がって、出迎え、ひざを曲げておじぎしました。王子は娘を見て、何も言わず、馬を進めました。王子が貧しい娘の家に来ると、娘は戸口に立っていないで小さな部屋の中に座っていました。王子は馬を止め、糸車に座りせっせと糸を紡いでいる娘を明るい日が射し込んでいる窓から見ました。娘は顔をあげ、王子が覗きこんでいるのがわかると、顔じゅう真っ赤になり、下を向いて糸紡ぎを続けました。そのときに糸が全然むらがなかったかどうかは私は知りませんが、娘は王様の息子が行ってしまうまで糸を紡ぎ続けました。
それから娘は窓のところに行って開け、「この部屋はとても暑いわ。」と言って、王子の帽子についている白い羽根が見分けられなくなるまでずっと見送っていました。そのあと、また部屋の中に座って仕事に戻り、糸紡ぎを続けました。すると、おばあさんが仕事をして座っていたときによく繰り返していた言葉が心に浮かび、これらの言葉を口ずさみました。
「紡錘、私の紡錘、急いで行って、求婚者を家に連れてきて、お願いね。」
するとどうでしょう?紡錘はあっという間に娘の手から飛びだし、戸から出て行きました。娘がびっくりして立ち上がり見送っていると、紡錘が浮かれて野原へ踊っていき、そのあとにきらきらと金の糸を引きずっているのが見えました。そうしてまもなく娘に全く見えなくなってしまいました。もう紡錘が無いので、娘は杼を手にとり、織り機に向かって座り、織り始めました。
ところで、紡錘はずっと踊りながら進んで、ちょうど糸が終わりになったとき、王子のところに着きました。「うん?何だ?」と王子は叫びました。「紡錘はきっと案内したがってるんだろうな。」それで馬の向きを変え、金の糸をたどって戻っていきました。ところが、娘は歌いながら仕事をして座っていました。「杼、私の杼、今日よく織って、私の求婚者を連れてきて、お願いね」
途端に杼は娘の手から飛び出て、戸口に出ていきました。しかし、敷居の前で絨毯を織り出し、その絨毯は誰も目にしたことがないほど美しいものでした。ユリやバラの花が両側に先、真ん中の金の地に緑の枝が伸びて、その下に野うさぎと家うさぎが跳ね、鹿たちがその間から頭をのばしていました。鮮やかな色の鳥たちが枝の上に止まり、歌が聞こえないだけで何も欠けるものがありませんでした。杼があちこち跳ねると、何でもひとりでにできあがっていくように見えました。
杼が逃げていったので、娘は座って縫物を始めました。手に針を握って娘は歌いました。「針、私の針、先のとがった細い針、求婚者を迎える準備をしておくれ。」
すると針は娘の指から飛んで、稲妻のように早く部屋のすみずみまで飛びまわりました。それはまるで目に見えない妖精が働いているようでした。あっという間にテーブルやベンチを緑の布で、椅子をビロウドでおおうと、窓に絹のカーテンを吊るしました。
針が最後の一針を縫い終わるとすぐ、窓から王子の羽根飾りが娘に見えました。紡錘が金の糸でそこへ王子を連れて来たのでした。王子は馬を下り、絨毯の上を歩いて家に入って来ました。部屋に入ると、みすぼらしい服を着た娘が立っていました。しかし、娘はその服の中からたくさんの葉に囲まれたバラの花のように輝き出ていました。「あなたは最も貧しく、そしてまた最も豊かな人です。」と王子は娘に言いました。「一緒にきてください。僕の花嫁にします。」娘は何もいいませんでしたが、王子に手を差し出しました。そこで王子は娘にキスし、一緒に家から出て馬に乗せ、王宮に連れて行きました。それから大喜びで結婚式があげられました。紡錘と杼と針は宝物庫にしまわれ、とても大事にされました。