世捨て人が神様を敬ってもうとても年をとっていたあるとき、たまたま遠くから可哀そうな罪人が首つり台にひかれていくのを見ました。世捨て人はうっかり、「ああ、あの人は当然の報いを受けるところだな」と独り言を言いました。夕方に、山に水を運び上げているとき、いつも一緒についてくる天使が現れなくて、食べ物も持ってきませんでした。それで世捨て人は驚いて、神様がそんなに怒っているのだから、自分の心の中をさぐりいったいどんな罪をおかしたのだろうかと考えてみましたが、わかりませんでした。それから、世捨て人は、何も食べず何も飲まず地にひれ伏して昼も夜も祈りました。
ある日、こうして森で激しく泣いていると、小鳥がきれいな声で楽しそうに鳴いているのが聞こえてきました。それで世捨て人はいっそう悩んで、言いました。「お前はなんて楽しそうなんだろう。神様はお前を怒っていないんだね。ああ、私がなぜ神様の怒りをかったのかお前が教えてくれたらいいのに。そうしたら私は償いをしてまたうれしくなれるのに。」
すると小鳥が口をきいて、「あなたは正しくないことをしました。首つり台につれられていく可哀そうな罪人を非難した時です。それを神様はお怒りなのですよ。神様だけが裁くのです。だけど、あなたが償いをし、罪を悔いあらためるなら、神様はお許しになります。」と言いました。そのとき、天使が手に一本の枯枝を持って世捨て人のそばに立ち、言いました。「三本の緑の小枝が出るまでこの枯枝をもちあるきなさい。しかし夜に眠るときは頭の下に置きなさい。家から家へ歩きパンをめぐんでもらい、同じ家では一晩より多くとどまらないようにしなさい。それが、神様がお前に課した償いです。」それで世捨て人はその枯枝を持ち、ずっと見ていなかった世の中へ戻って行きました。世捨て人は家々でもらうものの他は何も飲んだり食べたりしませんでした。しかし、断られたり、戸を開けてくれない家もたくさんあって、パンのひとかけらも口にしないこともよくありました。
あるとき朝から晩まで家々をまわり歩いて、誰も何もくれず、誰も夜泊らせてくれようとしませんでした。それで世捨て人は森へ入って行き、とうとうだれかが作ったほら穴をみつけました。そこにはおばあさんがいました。それで世捨て人は、「おばあさん、今晩あなたの家に泊めてもらえませんか?」と言いました。しかしおばあさんは、「いや、だめですよ。泊めてあげたくても、意地悪で乱暴な息子が三人いるんです。今は強盗をしにでかけているけど、戻ってきてあなたを見つけたら、私たち二人とも殺しますよ。」と言いました。世捨て人は、「泊らせてください。息子さんたちはあなたや私に悪いことをしないでしょう。」と言いました。おばあさんは可哀そうになり、承知しました。
そこで世捨て人は階段の下に横になり、頭の下に枯枝を置きました。おばあさんは世捨て人がやったことを見ていて、どうしてそうするんですか、と尋ねました。それで、世捨て人は、償いでその木を持ち歩き、夜は枕に使うこと、可哀そうな罪人が首つり台に向かうのを見た時当然の報いを受けていると言って、神様を怒らせたことを話しました。するとおばあさんは泣きだして、「もし神様がたった一言で罰するなら、息子たちは、神様の前で裁きをうけるとき、どうなるのでしょう」と叫びました。
真夜中に強盗たちは帰ってきて、わめきちらし大騒ぎしました。火をたき、ほら穴があかるくなると、男が階段の下に寝ているのが目に入り、強盗たちは怒りだして母親にどなりました。「あの男は誰だ?誰も入れるなと言っておかなかったか?」すると母親は、「ほっておきな。罪を償っている可哀そうな罪人だよ。」と言いました。強盗たちが「あいつは何をしたんだ?」と尋ねました、「おい、じいさん、あんたの罪を教えてくれ」世捨て人は体を起こし、自分が一言言って神様が怒り、この罪を今つぐなっているところだと強盗たちに話しました。強盗たちはこの話を聞いて、強く心を打たれ、今までの自分たちのくらしにショックをうけ、かえり見て、心から悔い改め、そのざんげをし始めました。世捨て人は、三人の罪人を改心させたあと、また階段の下に横になり眠りました。しかし、朝になると、強盗たちは世捨て人が死んでるのがわかりました。そして枕にしていた枯枝からは三本の緑の枝が高く伸びていました。こうして神様はまた世捨て人に目をかけて受け入れてくれたのでした。