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兎の眼15

时间: 2018-10-27    进入日语论坛
核心提示: 15 さよならだけが人生だ  みな子は絵をかいている。みなこ当番が、みな子の指の先に赤、青、黄などの絵の具をつけてやる。
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  15 さよならだけが人生だ
 
 
 
 みな子は絵をかいている。みなこ当番が、みな子の指の先に赤、青、黄などの絵の具をつけてやる。みな子は大きな画用紙の上に、その指を好きなように走らせる。力づよい線が美しい色といっしょに生まれてくる。
 
 アクションペインテングとかドローイングとか呼ばれているその絵は、約束ごとがないので、みな子のような子どもにはうってつけの教材だ。みな子もその絵をかいているときは、いきいきしている。
 
 よかったね、みな子ちゃんと小谷先生はかたりかけた。職員会議で足立先生が発言してくれていなかったら、いまごろどうなっていたかわからない。みな子ちゃん、いま、あなたはわたしの学級になくてはならないひとなのよ。
 
 みな子がきてから、この学級はだいぶかわったと小谷先生は思う。一学期のときは、告げ口が多かった。いまはそれがほとんどない。なんとなく学級に活気が出てきた、なにかしなければ子どもはかわらないんだとつくづく思う、もちろんわたしもと、小谷先生はちょっとてれて思った。
 
 でも、もうすぐみな子ともわかれなくてはならない、それがかなしい。かなしいだけでなしにこれからどうすればいいのだろう、いつまでもいてほしいのにと小谷先生はさびしく思った。
 
「せんせい、きゅうしょくぐるま、もうつかわないの」
 
 照江がたずねにきた。
 
「ええ、かえってじゃまでしょう。もう使わないわ」
 
 給食の車というのは、ミルクかんをはこぶ車のことで、机と机のあいだを引っぱっていきながら、それぞれの食器にミルクを入れていくようになっている。教室がせまいので、あちこちにあたって、よくミルクをこぼす、かえって不便なので、さいきん使っていなかったのである。
 
「そしたら、あのくるまつかっていい」
 
「いいわ。だけどなにに使うの」
 
「みなこちゃんのじょうようしゃにするの」
 
「へえ」
 
「いい」
 
「もちろん、いいわ」
 
 小谷先生は興味をもった。気をつけて見ていると、遊び時間にせっせと色をぬっている。車はラワンという木材でできていた。はじめクレパスで色をつけていたが、木の色にまけてしまってうまく色がのらない。とちゅうで絵の具にかえた。水をまぜないで小さな面積をていねいにぬっている。いろいろな模様をかきこんでぬっていた。
 
「はよ、かかせてえな」
 
 じゅんばんをまっている子がさいそくをしている。
 
「六十、六十一、六十二、六十三……」と数を読んでまっているところをみると、ひとり百とか二百とか制限時間があるらしい。小谷先生は思わずほほえんだ。
 
「きれいわね」
 
「きれい? せんせい」
 
「とってもきれいナ。イランやパキスタンという国ののりあいバスは、ちょうどこの車のように絵がかいてあるの。こんな車にのったら、さぞたのしいことでしょう」
 
「みなこちゃんをのせてあげるの」
 
「先生ものせてほしいなァ」
 
「せんせいはおとなだからダメ。こわれてしまう」
 
 車は三日ほどで完成した。きれいな花のような車だった。
 
 子どもたちはみな子をのせて試運転をした。車が動き出すと、みな子はかん高い笑い声をあげた。からだをゆらゆらさせてよろこんだ。鳥のように手をふってはしゃぐのだった。
 
 車はみな子のお気に入りになった。どういうわけかみな子はカサが好きだ。雨がふらないときでもよくカサをさした。学校の置きガサは黄色だ。そのカサをさして車にのるのが、みな子のお気に入りなのである。黄色いカサと、赤や青の車はよくにあった。
 
 当番の子どもに引かれて、みな子の車はゴロゴロ教室をまわる。そのよこで子どもたちは静かに小谷先生の授業を受けていた。
 
 二度めのみなこ当番が道子にまわってきた。こんどは淳一と組になった。昼の給食の時間のときのことだった。献立がクジラ肉甘《うま》煮《に》である。熱い料理ではないので、ついみな子はスプーンをおいて手づかみした。そのとき道子は、
 
「ダメ」
 
 とさけんでみな子の手をぴしゃっとぶった。みな子はしかたなしに、またスプーンでたべはじめた。
 
 よこでそれを見ていた文治が、
 
「みなこちゃんをたたいた、わるいわるい」とはやしたてた。
 
 それがきっかけで、三度め、みな子のことを話し合う時間をもったのだ。
 
「みなこちゃんがわるいことをしたら、みんなでちゅういするほうがいいとおもうねん。みんなはみなこちゃんがすきやとおもうねん。そやからいうて、なんでもかんでも、みなこちゃんにしんせつにするのは、まちがいやとおもうねん。みんなのかんがえと、ぼくのかんがえはちがいますか」と淳一がいった。
 
「みなこちゃんかてれんしゅうしないと、いつまでもなおらないでしょう。わるいことをするのをなおさないと、わたしらはかまわないけれど、みなこちゃんがかしこくならないでしょ。わたしのかんがえは、みなこちゃんもべんきょうをしたら、かしこくなるとおもうんだけど、せんせいはどういうかんがえですか」
 
 と道子もいうのだった。
 
 小谷先生がおどろいたのは、たいていの子どもが、そうやそうやとふたりの意見にさんせいすることだった。
 
「みんなえらいわ」と小谷先生はいった。
 
「みな子ちゃんはもうすぐ養護学校にいって、いろいろれんしゅうをするのよ。つらいことがあるかもわからない、そのとき、いまのみんなの考え方は、きっとみな子ちゃんに役立つと思うわ、ね、みな子ちゃん」
 
 みな子はククク……と笑って、小谷先生の手にぶらさがった。
 
 それからしばらくして、みな子はへんとうせんをはらして学校を休んでしまった。いまは一日でも二日でもおしい時間だったのに、小谷先生はざんねんでならなかった。子どもたちもなんとなく元気がない。主のいない車にのって遊ぶ子がいたが、じきおもしろくなくなるのか、つまらない顔をしておりてしまう。車の明るい色が、いまはいっそうわびしかった。
 
 小谷先生は学校のかえりに、みな子の家に寄ってみた。
 
「おとなしくねていますか」
 
「なかなか先生、それにいま淳一くんと道子さんがおみまいにきてくれたので、キャアキャアいうて遊んでいます」
 
「あら、淳ちゃんらがきているんですか」
 
「ええ。それに先生」
 
 みな子の母親は声をひそめた。
 
「このあいだ淳一くんのおかあさんがみえられましてね。あなたに悪いことをした、きょうはあやまりにきたっておっしゃるんですよ。先生が印刷してくださる学級通信を読んで先生のお考えもよくわかったし、なによりも淳一くんのかわりようにおどろかされたっていっていました。淳一くんがうちのみな子といっしょにすわっていたときに、先生に席をかえてもらうようにいいなさいとおっしゃったらしいです。淳一くんはいやだというので、教科書までやぶられてどうしていやなのかとたずねると、淳一くんはみな子を大事にしてやらないと、あちこちで教科書をやぶるといったんだそうです。その一言でおとなの負けだと思ったと、淳一くんのおかあさんはしみじみおっしゃっていました」
 
「そうですか」
 
 小谷先生は胸のあつくなるような思いだった。
 
 みな子の部屋にはいっていくと、みな子はふとんの上で、淳一と道子はその前で、はらばいになって折紙をおっていた。もっともみな子はおってもらった折紙をならべているだけだったが……。
 
「ごくろうさま、淳ちゃん道子ちゃん」
 
「あ、せんせい」とふたりはおきあがった。
 
「みな子ちゃん、ぐあいはどうですか」
 
 と小谷先生がいうと、みな子はすぐ笑顔になって小谷先生の手をさわりにきた。
 
「あら、みな子ちゃん、あなただいぶ熱があるじゃないの」
 
「ええ、どういうんですかね。こういう子は熱なんかあまり気にならないんでしょうかね。八度、九度とあがっても、こんなちょうしなんですよ」
 
「みなこちゃん、いつもとおなじよ、せんせい」と道子がいった。
 
「でも、あまり長く遊んでいると、みな子ちゃんの病気によくないから、もうすこしいたらかえりましょうね」
 
 小谷先生はつらい思いがした。もうすぐ、この子たちに別れのかなしさを味わわせなくてはならないと思うと、自分がたいへんにざんこくなことをしているように思えた。
 
 その夜、小谷先生は夢を見た。
 
      *
 
 どこか遠い海だった。それはサンゴ礁の海だったろうか。はるか沖合は白く波立って、かげろうの羽音のような潮《しお》騒《さい》が、かすかにきこえてきた。まっ白な砂はいつか波にあらわれて、ゆらゆらゆらいでいる。コバルトブルーの海は少女の眼のように、ふかく、やさしかった。みどりのつるが、砂浜に足をのばしている。淡《と》紅《き》色の小さなラッパは、ひるがおの花で、天を向いてかわいい演奏をしている。この海はどこだろう。赤いカニが二匹にげた。小谷先生はそのカニをおう。先生をごまかしちゃダメよ、あなたはみな子ちゃん、あなたは鉄三ちゃん、カニになって先生をごまかそうとしたって、その手にのるもんですか、こらまて。長い髪をなびかせて小谷先生は走る。海の中へにげるなんてずるい。小谷先生は先まわりをする。笑い声をあげてカニがにげていく。わるい子、先生はおこったゾ、もうかんにんしてやらないわ。白い砂浜を小谷先生はかけた、鉄三とみな子ははだかで砂をほっている。そら、つかまえた。みな子はからだをくねらせてにげる。キャアキャア笑ってするりと身をかわす、鉄三は両手を広げて鳥のようににげる、ブーンとひこうきのまねをして小谷先生をからかってにげる。ちゃんとおしゃべりができるくせに、よくも先生をだましていたナ。みな子の笑い声がかん高い。ふたりはかける、小谷先生もかける。また海へにげるつもりだ、ほんとうにわるい子、いいわ、先生はおよげるんだから、どこへでもにげてごらん。バクじいさんがいた。岩に腰をおろしてチェロをひいている。子どもたちはバクじいさんにとびついた。みな子がまた高い声で笑っている。鉄三はバクじいさんにもたれてあまえている。バクじいさんはやさしい眼をしてにこにこと、チェロをひいている。ひどいわ、みんな、わたしをこんなにかけさせておいて。バクじいさんはふたりの手を引いて歩きだした。おじいさんまって、わたしもいくんだから。潮騒はいっそうひどくなった。まって、まってったら。沖の波がたかくなった。どうしたの、鉄三ちゃん、わたしをおいていかないで。みな子ちゃん、こっちを向いて。おじいさんおじいさん、いや、ほうっていかないで。鉄三ちゃんみな子ちゃあーん。
 
     *
 
 小谷先生は泣いていた。夢だったのにほんとうに涙をこぼして泣いていた。いやだわ、夢を見て泣くなんて子どもみたい、小谷先生ははずかしかった。
 
 とうとう、みな子と別れる日がきた。
 
 小谷先生はできるだけ、ふだんの日と同じようにふるまった。昼休みにみな子の両親とおばあさんがそろって学校にきた。つぎの学校へ手続きにいくので、みな子は給食をたべないでかえることになった。
 
 みな子の両親は、小谷先生にお礼をいった。母親とおばあさんは泣いていた。小谷先生はほほえんであいさつを受けた。みな子の両親は子どもたちにもお礼をいった。
 
「どういたしまして」
 
 だれかがおどけていったので、みんな笑った。小谷先生はほっとした。できるだけさりげなく、みな子と別れたかった。それで、その笑い声はありがたかった。
 
 給食はくばってしまっていたが校門までみな子を送っていくことになった。みな子はみんなにかこまれて、きげんがよかった。
 
 ゆらゆらと歩いて笑い声をあげた。
 
「みなこちゃん、きょうきげんがいいね」とたけしがいった。
 
「あしたからこのがっこうにこられへんのになあ」とふしぎそうだ。
 
 校門の前で、みんなはいった。
 
「みなこちゃん、さようなら」
 
 みな子はククク……とうれしそうに笑った。おばあさんがなんども頭をさげた。
 
「みなこちゃん、またあそびにおいでよウ」「みなこちゃんのくるま、ちゃんとおいといたげるさかいな」
 
「みなこちゃん、さよーならー」
 
 みんな手をふった。みな子はいっそう大声で笑った。子どもたちはみな子の姿が見えなくなるまで手をふっていた。
 
 みな子を見送ってから、給食をたべるために、みんな教室へかえった。いつもはやかましいのに、きょうはあまりしゃべる子どもがいなかった。教室中がなんとなくしーんとしていた。
 
 小谷先生は淳一が給食をたべないことに気がついた。
 
「淳ちゃん、どうしたの。どうして給食をたべないの」
 
 淳一はうらめしそうに小谷先生の顔を見た。ほおのあたりがひくひく動いた。みるみる眼に涙がたまった。なにかを訴えるように、となりの道子を見、たけしを見て、ふたたび小谷先生の顔をみつめた。
 
 それは短い時間だったのに、長い時間のように感じられた。小谷先生はくるっとうしろを向いた。小谷先生の肩ははげしく動いて、どの子どもも先生が泣いていることを知った。淳一はぽろぽろ涙をこぼし、それまで、がまんしていた道子は声をあげて泣きはじめた。照江はしゃくりあげ、たけしは下を向いたままだった。みんなさむい顔をして、さめた給食をみつめていた。
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