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第二章 大惨劇--大惨劇(1)_夜歩く(夜行)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:第二章 大惨劇  大惨劇 直記はたしかにその晩、気が変になっていたにちがいない。その証拠には、それから間もなく、二階のか
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第二章 大惨劇

  大惨劇

 直記はたしかにその晩、気が変になっていたにちがいない。その証拠には、それから間

もなく、二階のかれの部屋へとってかえすと、今夜はどうしても、この部屋で寝てくれと

いってきかないのだ。

「ね、後生だからおれのいうとおりにしてくれ。いくらわらわれても仕方がないが、今夜

おれは、何んだか胸騒ぎがしてならないんだ」

 日頃傲ごう岸がんな直記のやつが、妙に神経質になっているのは笑止のいたりだった

が、また、それだけに私も、誘われるように恐怖をおぼえた。

「そりゃア……どこで寝るのも同じことだが、この部屋にはベッドがひとつしかないじゃ

ないか」

「だからさ、これをこうして……」

 と、直記は大きなソファをドアのうちがわに引っぱって来ると、

「このうえで寝てくれりゃいいさ。毛布ならここに余分がある、それに今夜は幸い暖かだ

し……」

 私は呆あきれて直記のやることに眼を瞠みはった。この家では、ドアは全部、室内のほ

うへひらくようになっている。だからドアにぴったりくっつけてソファをおくと、金輪際

外からドアをひらくことは出来ないのだ。

「仙石、どうしたんだ。君は誰か外から忍んで来るやつがあるとでも思っているのかい」

「いや……いや、そういうわけじゃないが、寝ながら話をするには、そこにソファがあっ

たほうが一番好都合だからさ」

 私は直記の真意をはかりかねたが、こうなったらもう仕方がない。相手のいうとおり

に、従うよりほかにみちはない。私は上衣だけぬぐと、直記のかしてくれた毛布にくる

まって、ごろりとソファに横になった。直記はパジャマに着替えてベッドにもぐりこんだ

が、寝ながら話をするには好都合だといったにも拘かかわらず、かれはほとんど口を利き

かなかった。ただむやみやたらと煙草をふかすばかりだった。

「おい、もう寝ようじゃないか」

「うん、何時ごろかしら」

「そろそろ十一時が来る」

 私の腕時計は十一時十分まえを指していた。

「そうか、じゃスイッチをひねってくれ」

 スイッチは私の頭上の壁についている。これをひねると部屋のなかはまっくらになっ

た。その暗がりの中で直記がもぞもぞと寝返りを打つ気配がきこえた。

 寝ようとはいったものの、しかし、私だってなかなか眠れなかったのである。眼をとじ

ると、ありありとうかんで来るのは、池の端を逃げまわっている蜂屋の姿、そいつがころ

んで、サアーッとそのうえから振りおろされた白はく刃じんのひらめき、さらにまた艶え

ん冶やたるお柳さまのみめかたち、蜂屋と守衛のいがみあい、そして最後に私の瞼まぶた

に焼きついてはなれないのは、さっき階段のうえで出会った、八千代さんの取り乱した姿

だ。むっちりとした乳房のふくらみ。それにまた、あのなまなましい蚯蚓みみず脹ば

れ……私は全身の血の狂い出すのをおさえることが出来なかった。

 あのとき蜂屋と八千代さんのあいだに、どんなことがあったのだろう。むろん、蜂屋の

やつが、暴力をふるって挑みかかったのはわかっている。しかし、それに対して八千代さ

んはどう受けたか。ひょっとすると蜂屋のやつに……まさか……まさかあの短時間のうち

に……畜生、畜生……蜂屋のやつ!

「屋代、寝られないのか」

 ベッドのほうから、直記がもそりとした調子で声をかけた。

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