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第二章 大惨劇--大惨劇(4)_夜歩く(夜行)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示: その翌朝、眼がさめたのはもう十時過ぎのことだった。直記は私よりまえに起きていたと見えて、開け放った窓のそばに椅子を持ち
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 その翌朝、眼がさめたのはもう十時過ぎのことだった。直記は私よりまえに起きていた

と見えて、開け放った窓のそばに椅子を持ち出して煙草をふかしていた。

「やあ、君はもう起きていたのか」

「うん、おまえはよく寝ていたな。外へ出ようと思ったんだが、おまえを起こすのも可哀

そうだと思って、今まで待っていた。おい、そろそろ起きようじゃないか」

 私が起きなければ、直記は部屋から出ることが出来ないのである。

 階下へおりてバスを使うと、やっと人心地ついた。食堂へ出ると十一時。むろん直記と

私のほかには誰もいなかった。

「八っちゃんはどうしたね」

 給仕に出たお藤に訊たずねると、

「お嬢さんは、何んだか気分が悪いとおっしゃって朝から出ていらっしゃいません」

「守もり衛えさんや蜂はち屋やは……」

「それが妙なんですよ。おふたりとも、今朝から姿が見えませんの」

 お藤は不思議そうに眉まゆをひそめている。

「姿が見えない? みんな部屋でふて寝をしているんじゃないか」

「いいえ、そんなことはございません。若わか旦だん那なも蜂屋さんも、お部屋にいらっ

しゃいません」

 お藤がそれにつづいて何かいおうとしたときである。突然、庭のほうからただならぬ悲

鳴がきこえて来た。私たちがぎょっとして、窓のそばへ走っていくと、悲鳴の主は四よ方

も太ただった。四方太はまるで、お化ばけにでも追っかけられるような恰かつ好こうで、

こけつまろびつ、庭を横切っていく。

「おじさん、どうしたんだ」

 直記が声をかけると、四方太はこちらをふりかえり、何かいおうとするらしかったが、

顎がふるえて言葉が出ない。ガタガタふるえながら、しきりに庭の奥を指さしている。

 私たちは急いで、食堂から庭へとび出した。四方太の指さしているのは林の向うの洋館

である。それに気がつくと、直記はちょっとためらうようであったが、すぐ意を決したよ

うに走り出した。私もむろんそのあとからついていった。

 昨日、蜂屋もいったように、なるほどその洋館には窓という窓、ことごとく外から眼か

くし板がうちつけてある。私たちはその洋館の入口まで来たが、そこで思わず、ゾーッと

して立ちすくんだのである。

 開けっぱなしになった洋館の入口から玄関へかけて、真っ赤な足跡がついている。それ

はスリッパの跡らしく、みんな外へ向かってついているのだ。

「とにかく、なかへ入ってみようか」

 中へ入ると廊下にも、点々として赤い足跡がついている。それを伝って行くと、廊下の

右側に小ぢんまりとした寝室があった。寝室にはベッドがひとつ、そしてそのベッドの毛

布の下から、靴をはいた男の足が二本ニューッと出ており、ベッドの下は物もの凄すごい

血ち溜だまり。しかも、その血溜まりを踏みあらしたと見えて部屋中いたるところに、

真っ赤なスリッパの跡がついている。

 直記も私も、しばらく凍りついたように立ちすくんでいたが、やがて、直記が恐る恐る

ベッドのそばへちかづいていった。

 そして、じっとりと血のにじんだ毛布のはしに手をかけると、そろそろそれをめくって

いったが、そのとたん、私は何んともいえぬ恐ろしさに、みぞおちのあたりが、ぐうんと

重くなるのをおぼえ、いまにも嘔おう吐とを催しそうになった。

 ベッドのうえに大の字になっているのはたしか佝僂の姿である。しかし、それが、蜂屋

であったか、守衛であったか、誰にもすぐには判断がつきかねた。

 何な故ぜなれば、その屍し骸がいには首がなかったのである。

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