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第二章 大惨劇--夜歩く人(3)

时间: 2023-12-20    进入日语论坛
核心提示:「わからないって、八っちゃん、それはどういう意味なんだ」 直記は思わず声を高めたが、すぐ気がついたようにひくい声で、「ね
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「わからないって、八っちゃん、それはどういう意味なんだ」

 直記は思わず声を高めたが、すぐ気がついたようにひくい声で、

「ねえ、八っちゃん、あの一件について、君はまだぼくにかくしていることがあるんだ

ね。それだったらここでいっておしまい。どうしてあんなことが起こったのだ」

 八千代さんは相変わらず、光のない眼で直記を見ている。はたから見るといかにも落ち

着きはらっているようだが、その実、彼女がどのように悶もだえ苦しんでいるかは、膝ひ

ざにおいた彼女の手がよく示している。彼女は両手でハンカチをねじ切らんばかりに揉も

んでいるのである。

 やがて抑揚のない声で語りはじめた。

「あの日、あたしはある人から、今日自分のまえにひとりの佝僂が現われるということを

きかされたの。その佝僂こそいつか送って来た写真の主、あの首をチョン切られた佝僂だ

というの。あたし、それをきくと憤りのためふるえあがった。殺してやる、殺してやる、

……思わずあたしはそう口走ったの。すると、そのひとが、殺しちゃいけない。殺しちゃ

あとが面倒だから、ただ、こらしめのために、そいつの体に烙らく印いんをおしておや

り。右の太ふと股もものところをピストルで撃っておやり……そういってその人があたし

にピストルをくれたの」

 私たち、私と直記は思わず顔を見合わせた。

「いったい、そりゃ誰だい。そのひとというのは……」

 八千代さんは黙っていた。光をうしなった眼が宙に迷っている。

「八千代さん、ひょっとすると、それは守衛さんでは……」

 八千代さんはしばらく黙っていたのちに、やがてかすかにうなずいた。私と直記はまた

顔を見合わせた。何かしら私は恐ろしいものが腹の底からこみあげて来るようなかんじ

だった。

「八っちゃん、君は守衛さんの太股にあんな傷のあるのを知っていたのかい」

 八千代さんはかるく首を左右にふって、

「むろん、あたしそんなこと知らなかったわ。直記さん、あなただってお喜多の話をきく

まで知らなかったでしょう。あなたの知らないようなことをあたしが知っている筈はずが

ないじゃありませんか、守衛さんというひとは、同じ屋敷のなかにいても、異邦人同然

だったんですもの。だから、あのとき守衛さんが、右の太股をねらっておやりといった言

葉に、特別の意味があろうとは思ってなかったの。偶然に守衛さんのいったとおりのとこ

ろを狙ねらえたのだけれど……」

 直記はきっと八千代さんの顔を見すえながら、しばらく無言でひかえていたが、やがて

また体を乗り出すと、

「八っちゃん、すると守衛さんは、あの妙な手紙や写真のことを知っていたんだね」

「ええ、知ってたわ。あたしが話したんですもの」

 その瞬間の直記の顔色を、私はいまでも忘れることが出来ない。それは嫉しつ妬とと憎

悪のこんがらかった、世にもすさまじい、まっくろな炎のかたまりであった。

 おそらくかれは、八千代さんの秘密を独占していることに、ひそかな慰めと誇りを見出

していたのだろう。ところが八千代さんが信頼してうちあけたのは、直記ばかりではな

かった。

 直記がいちばん軽けい蔑べつしている、守衛にも彼女の秘密を頒わかっていたのだ。直

記が嫉妬に狂いそうな眼つきをしたのも無理はない。

 しかし、八千代さんは直記のそういう動揺には気もつかなかった。急に怯おびえたよう

な眼をすると、

「警察でもいまにきっとキャバレー『花』の事件を調べなおすわ。蜂屋小市狙撃事件がつ

まらない酔っぱらい女の狂態じゃなかったことに気がつくわ。そうしたら、きっとその女

を追及していって、いまにそれがあたしだということを発見するわ。ああ、あたしどうし

たらいいの。あたし、とてもこの家にはいられない。あたし、逃げるわ、あたし逃げ出し

てやるわ」

 こういう無軌道な女にかぎって、生命に対する恐怖感は人一倍はげしいものである。八

千代さんはテーブルに顔を伏せると身をもんで泣き出したが、そのとき、ふいに直記が、

テーブル越しに身を乗り出して八千代さんの耳に何かささやいた。

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