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第四章 もう一人の女--血の凍る予想(5)

时间: 2023-12-21    进入日语论坛
核心提示:「そんな理り窟くつはどうでもよい。八千代が共犯者として、それじゃ、誰が主犯だというんです。ひょっとすると」「直記!」 突
(单词翻译:双击或拖选)

「そんな理り窟くつはどうでもよい。八千代が共犯者として、それじゃ、誰が主犯だとい

うんです。ひょっとすると……」

「直記!」

 突然、鉄之進がすっくとばかり立ちあがった。

「おのれは……おのれは……」

 あっという間もなかったのである。鉄之進の固く握りしめた拳こぶしが、霰あられのよ

うに直記の頭上に落下して来た。

「あっ、お父さん、何をする!」

 直記も憤然として、鉄之進のほうへ向きなおったが、その顔面へ、また鉄之進の拳が二

度三度とふりおろされた。直記の瞼まぶたがさけて、さっと鮮血がとび散った。

「バカな、お父さん、あなたは……」

 直記はわれにもなく、鉄之進の胸をついた。このことばかりは、直記のために弁じてお

くが、そのとき、直記に殺意があったろうとは、絶対に私には信じられない。事実また、

鉄之進の死因が、直記の一撃によったものでないことは、誰の眼にもあきらかだった。

 それにもかかわらず、直記のひと突きによって、鉄之進はよろよろと二、三歩よろめい

たかと思うと、だしぬけにさっと眼や鼻から鮮血がほとばしった。

 鉄之進はまるで盲めしいたもののように、フラフラと、頼りなげに両手をひろげてよろ

めいたが、つぎの瞬間朽木を倒すように、どうとその場にひっくりかえったのである。

 これが仙石鉄之進の最期であった。

 そのときの、一座の狼ろう狽ばい、動揺はいうまでもない。いわゆるてんやわんやであ

る。そして、そのために、せっかくの金田一耕助の名講演も、一時中絶のやむなきにい

たったのである。

 さて、鉄之進の急死によって、家中がごったがえしているあいだに、私は自分の部屋へ

かえって、この稿を書きつづけた。いままで機会がなかったのでいわなかったが、これま

で書いて来たところは、すべて、事件以来今日まで、ひまを見て書きつづけて来たのであ

る。

 私も探偵小説家だ。もっとも直記の毒舌によると、三流四流のヘボ作家だということだ

が、ヘボはヘボでもよい。自分の空想力の欠如はやむを得ないとしても、このような奇怪

な事件に直面しては、いかにヘボ作家の私でも、どうしてこれを記録にしてのこしておか

ずにいられようか。

 だから私は丹念に、いままでの見聞を書きしるしてきたのだが、正直のところ、いまこ

れを書いている私の手は、怪しくふるえてやまぬのだ。

 ああ、犯人は誰なのか。金田一耕助の胸中にある犯人とはいったい何者なのか。いやい

や、それはきくまでもない、私にもだいたいわかっているのだ。

 だが、しかし、金田一耕助はそれならばなぜ、その犯人をすぐ捕えてしまおうとしない

のか。

 いかに、鉄之進の凶変があったとはいえ、あの恐ろしい殺人鬼を、どうして自由にして

おくのだ。

 ああ、恐ろしい。さっきそいつがジロリとにらんだ、あの物もの凄すごい眼光を、私は

いまも忘れることができぬ、あの眼まな差ざしのなかには、たしかに殺意がこもってい

た。

 ああ、いまにして思い当たるのは、そいつがあくまで私をそばにひきつけておこうとす

るのは、ひょっとすると、この私を、自分の身替わりに立てようという、下心があるため

ではなかろうか。

 お静という女を殺して、八千代さんの身替わりに立てたように……。

 そういえば、あいつと私は年齢も同じだ。背せ恰かつ好こう、姿かたち、肉付きも、い

たってよく似ているのではないか。私にあいつの着物を着せて、首をちょん斬ぎってし

まったら……。

 ああ、恐ろしい、ゾッとする。私もいまに殺されて、首をちょん斬られるのではあるま

いか。

 おお、神様!

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