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第五章 最後の悲劇--最後の悲劇(1)

时间: 2023-12-21    进入日语论坛
核心提示:第五章 最後の悲劇  最後の悲劇 愚かにも私はそのとき、勝利の快感に酔うていたのだ。直記をもう自家薬やく籠ろう中のものと
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第五章 最後の悲劇

  最後の悲劇

 愚かにも私はそのとき、勝利の快感に酔うていたのだ。直記をもう自家薬やく籠ろう中

のものと思いこんでいたのだ。活いかすも殺すも思うままだと、私は早まって考えた。だ

から猫が鼠ねずみをもてあそぶように、少しでもこの快感を長びかせようと、私は自分の

饒じよう舌ぜつをおさえることが出来なかったのだ。私は得意になってしゃべって、しゃ

べって、しゃべりまくった。そのあとに、どのような陥かん穽せいが設けられていようと

も気がつかずに……。

「直記、おれはいま、お静が君のおもちゃになった揚句、発狂したということを、知った

瞬間、気が狂ったといったな。そうだ、そのとおりだ。おれはその瞬間から、君に対する

復ふく讐しゆうを誓ったのだ。だが、どうしておれがお静のことを知ったか、誰からそれ

を聞いたか、君は知っているか、知るまい、知るまいね。それは八千代からだぞ。おれは

八千代の口からきいたんだ。八千代はずっと以前から、おれの女になっていたんだぜ」

 その瞬間、直記のからだが雷にうたれたようにはげしくふるえた。この男はいまでも八

千代を愛しているのだ。その愛する女が、人もあろうに、おのれが犬猫同然にあつかって

いた男に、身をまかせていたという事実は、直記の心をまっ暗にしたにちがいない。かれ

はもの凄すごい眼をして私を凝ぎよう視しした。

 私はひっつるような声をあげて笑った。

「直記、君は女に関しては、何でも知っているようなことをいっていたな。しかし、ほん

とはなんにも知っていなかったのだ。君は八千代におれのことを話した。売れない三文探

偵小説家の屋代寅とら太たという男は、自分の幇ほう間かんも同様の人物だと打ち明け

た。直記、それがそもそも君の失敗のもとだった。八千代のような物好きな女が、それを

聞き流しておく筈はない。あいつは小説家、ことに探偵小説家とはいかなる動物なるやと

好奇心を起こした。そして自分からおれのところへ押しかけて来たんだ。それがそもそ

も、今度の事件の発ほつ端たんなのだ」

 直記の汗はますますひどくなってくる。滝のように頰ほおをつたって流れる汗が、月の

光に玉たま簾すだれのようにキラキラ光った。

「おれは幾いく度どもいうとおり、意気地のない人間だ。とても女を口説くような、勇気

のある人間じゃない。だから、八千代がどんなに誘いかけても、おれは唯ただ苦笑をうか

べて受け流していた。事実また、おれが誘いの手に乗ったら、八千代はひらりと体をかわ

したろう。そして、それきり寄りつかなくなったろう。それが、ああいう女の趣味だ。と

ころがおれはその手に乗らなかった。朴ぼく念ねん仁じんみたいな顔をして受け流してい

た。それがあのじゃじゃ馬をじりじりさせたのだ。あいつはどうしても、おれに発情させ

ねばおかぬと決心していたらしい。勢い向こうからしだいに深みにはまって来た。そうし

ているうちに、はからずもあいつが洩もらしたのがお静のことだ。むろん、八千代はお静

という女がおれの女だと知っている筈はない。君の話が出たついでに、ついお静の噂うわ

さがとび出したのだ。おれはそのとき、はじめてお静の悲惨な消息を知ることができた。

いつか君はおれにむかって、お静は空襲で行方不明になったといったが、それはみんな噓

うそだということを知ったのだ。幾度もいうとおりおれはそのとたん気が狂ったのだ。そ

しておれのような男を怒らせることが、どんなに危険かということを、八千代もそのとき

知ったろう。おれはその日、暴力をもって八千代をおれのものにしたのだ」

 直記のからだが、またはげしくふるえた。怒りが恐怖を押しのけたらしい。かれの顔に

は名状することのできぬ嫌悪の色がうかんでいた。私はまたその顔に唾つばを吐きかけて

やった。

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