「そうかね。」
鼻の高い、眼光の鋭い顔が一つ、これはやや皮肉な微笑を唇頭に漂わせながら、じっと
「それは強いことは強いです。何しろ
「ははあ。」
相手の顔は依然として微笑しながら、
「しかしです。」呂馬通は一同の顔を見廻して、さも「しかし」らしく、
「しかし、英雄の
「すると、英雄の器と云うのは、勘定に明いと云う事かね。」
この
「いやそう云うつもりじゃないです。――項羽はですな。項羽は、今日
呂馬通は、得意そうに左右を顧みながら、しばらく口をとざした。彼の論議が、もっともだと思われたのであろう。一同は互に軽い頷きを交しながら、満足そうに黙っている。すると、その中で、鼻の高い顔だけが、思いがけなく、一種の感動を、眼の中に現した。黒い瞳が、熱を持ったように、かがやいて来たのである。
「そうかね。項羽はそんな事を云ったかね。」
「云ったそうです。」
呂馬通は、長い顔を上下に、大きく動かした。
「弱いじゃないですか。いや、少くとも男らしくないじゃないですか。英雄と云うものは、天と戦うものだろうと思うですが。」
「そうさ。」
「天命を知っても尚、戦うものだろうと思うですが。」
「そうさ。」
「すると項羽は――」
「だから、英雄の器だったのさ。」
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