爬虫類の標本室はひっそりしている。
落ち合う時間は二時である。腕時計の針もいつのまにかちょうど二時を示していた。きょうも十分と待たせるはずはない。――中村はこう考えながら、爬虫類の標本を眺めて行った。しかし
中村はもう一度腕時計を眺めた。腕時計は二時五分過ぎである。彼はちょっとためらった
腕時計は二時十五分である。中村はため息を
二時二十分! もう十分待ちさえすれば
中村は二時半になるが早いか、爬虫類の標本室を出ようとした。しかし戸口へ来ないうちにくるりと
爬虫類の標本室は今も
二時
二時
三時。
三時五分。
三時十分になった時である。中村は春のオヴァ・コオトの下にしみじみと寒さを感じながら、
× × ×
その日も電燈のともり出した時分、中村はあるカフェの隅に彼の友だちと話していた。彼の友だちは
「
話しを終った中村はつまらなそうにこうつけ加えた。
「ふん、莫迦がるのが一番莫迦だね。」
堀川は
「君はもう帰ってしまう。
中村はにやにや笑い出した。
「三重子も
「君よりもか?」
「莫迦を言え。俺は二十三貫五百目さ。三重子は確か十七貫くらいだろう。」
十年はいつか流れ去った。中村は今ベルリンの
(大正十四年一月)
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