その上不思議な事にこの画家は、
しかしその画の中に恐しい力が潜んでいる事は、見ているに従って分って来た。殊に前景の土のごときは、そこを踏む時の足の心もちまでもまざまざと感じさせるほど、それほど的確に
「大へんに感心していますね。」
こう云う
「どうです、これは。」
相手は
「傑作です。」
「傑作――ですか。これは面白い。」
記者は腹を
「これは面白い。元来この画はね、会員の画じゃないのです。が、何しろ当人が口癖のようにここへ出す出すと云っていたものですから、
「遺族? じゃこの画を
「死んでいるのです。もっとも生きている中から、死んだようなものでしたが。」
私の好奇心はいつか私の不快な感情より強くなっていた。
「どうして?」
「この
「この画を描いた時もですか。」
「勿論です。気違いででもなければ、誰がこんな色の画を描くものですか。それをあなたは傑作だと云って感心してお
記者はまた得意そうに、声を挙げて笑った。彼は私が私の不明を恥じるだろうと予測していたのであろう。あるいは一歩進めて、鑑賞上における彼自身の優越を私に印象させようと思っていたのかも知れない。しかし彼の期待は二つとも無駄になった。彼の話を聞くと共に、ほとんど
「もっとも画が思うように描けないと云うので、気が違ったらしいですがね。その点だけはまあ買えば買ってやれるのです。」
記者は晴々した顔をして、ほとんど嬉しそうに微笑した。これが無名の芸術家が――我々の一人が、その生命を犠牲にして僅に世間から
「傑作です。」
私は記者の顔をまともに見つめながら、昂然としてこう繰返した。
(大正八年四月)
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