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女妖(2)

时间: 2022-05-23    进入日语论坛
核心提示:二 婦人は車を拾って、「麹町一口坂の都電停留所のそば」と命じた。車の中では殆んど口をきかなかった。浩一は二人の服地を通し
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 婦人は車を拾って、「麹町一口坂の都電停留所のそば」と命じた。車の中では殆んど口をきかなかった。浩一は二人の服地を通して伝わって来る柔かい温か味に気を奪われていた。
 それは高級ホテルのようなアパートであった。小さな窓のある管理人の部屋の前を通って、階段を上がると、二階の廊下のはじに婦人の部屋があった。婦人は手提(てさ)げから鍵を出してドアをひらき、電燈のスイッチを押した。フックラとした肘掛椅子(ひじかけいす)と長椅子、派手なクッションが三つ四つ、赤い模様の絨毯(じゅうたん)、それが居間で、次の部屋が寝室らしく、立派なベッドのはしが見えていた。
「ちょっと待っててね。そこに掛けて」
 婦人は寝室の中へ姿を消した。
 しばらく待たせて出て来た時には、黒ビロードのガウンと着更(きか)えていた。そして、小さな銀盆の上に洋酒の(びん)とグラスを二つのせたのを持っていた。浩一と向き合った椅子にかけて、グラスに手際(てぎわ)よく洋酒をつぎ、その一つを彼の方にさし出しながら、突然、
「あなた、ご両親は?」
 とたずねた。
 ビロードのガウンには、まっ赤な絹の裏がついていた。身動きするたびに、それがめくれて、腕や脚の部分が、チラチラと見えた。ガウンの下には何も着ていないらしく、からだ全体の線が、しなやかなビロードごしに、そのまま眺められた。なんてすばらしいからだだろうと思った。ふと、あの聖母に似て聖母よりもなまめかしい裸女の巨像が浩一の頭をかすめた。
「両親なんてないのです」
 グラスの強い酒が、浩一の喉をカッとさせ、婦人のからだから発散する香気にうっとりとなった。彼はお伽噺の主人公であった。お伽噺の中では、或いは映画の画面では、浩一に当る青年は、どんな仕草(しぐさ)をするのだろうと思ったりした。
「ぼくは、親も兄弟もないんです。伯父の世話で大きくなったのですが、その伯父も(ひと)(もの)なんです。伯母は早くなくなったのです。この伯父とぼくは、(まった)く気が合わないのです。ぼくは自転車の(おろ)しをする店に勤めていたのですが、その店も、ゾッとするほどいやなんです。それで、やけくそになったんです」
「それで、お金を盗んだの?」
「伯父のへそくりです。伯父の全財産です。伯父は紙袋を貼る機械を一台持っていて、やっと暮らしているのです。コツコツ貯めた、伯父にとっては命よりもだいじな金です。ぼくは、伯父が隠していた銀行の通帳とハンコを探し出したのです。十万円ほどありました」
「それを遣いはたしたのね。楽しかって?」
「いつも自殺する一歩前でした。これがなくなったら自殺するという考えは、甘い楽しいものですね」
 その時、婦人は妙な薄笑いを浮かべた。同類の笑いであった。浩一が婦人の前で、何でも(しゃ)べれるのは、そういう同類感を、彼の方でも直覚していたからだ。
「盗んでからどのくらいになるの」
「二十日ほどです」
「よく、つかまらなかったのね」
「伯父は警察に云わなかったのかも知れません。でも、伯父は全財産をとられて、病気になるほど驚いたでしょう。ほんとうに病気になって寝ているかも知れません」
「可哀そに思うの?」
「可哀そうです。しかし、ぼくは、あの人の顔を二度と見たくありません。ゾッとするほどきらいなのです」
「かわってるのね。いっとう親しい人が、いっとう嫌いなのね。……お友達は?」
「ありません。みんなぼくとは違う人間です。ぼくの気持のわかるやつなんて、一人もいません。奥さん、あなただって、ぼくの気持、わかりっこありませんよ」
「まあ、奥さんだなんて。あたし、奥さんに見えて?」
「じゃあ、なんです」
「あなたと同じ、ひとりぼっちの女よ。まだ名前を云わなかったわね。あたし相川(あいかわ)ヒトミっていうの。親から譲られたお金で、勝手な暮しをしている変りものよ。あなたのお友達になってあげるわ。あんまり独りぼっちで、可哀そうだから」
 婦人は立ち上がって、浩一のかけている長椅子に席をかえた。そのとき、バンドをしめていないガウンの前が、花の咲くように、フワッとひらいて、桃色の全身がチラリと見えた。やっぱり下には何も着ていなかった。その一と目が、浩一を電気のように撃ち、全身のうぶ毛が総毛立(そうけだ)った。
 婦人の手が自分の肩を抱いているのを感じた。浩一は両手で顔をおさえて、長いあいだ、だまっていた。すると、彼の肩が異様にふるえ、両手の中から、少女が笑っているような声が漏れた。そして、手の指のあいだから、キラキラ光るものが、にじみ出して来た。
 婦人はだまって、それを見ていた。したいようにさせておいた。
 浩一はやっと泣きやんで、涙にぬれた顔をあげた。そして、低い鼻声で恥かしそうに云った。
「なぜ泣いたかわかりますか。……あなたが好きだからです」
 彼は激情のためにブルブルふるえていた。
「もういいのよ。泣かないで。あなたの気持よくわかるのよ。あたしだって好きよ。涙にぬれた顔、まるでちがうように見えるわ。美しいのよ。あなた、自分の美しさを知ってて?……あなたのような人に会ったの、はじめてよ」
 婦人は浩一の髪の毛を、もてあそんでいた。その感触が、電気のように、彼の心臓まで響いて来た。
「ほんとうのことを云いましょうか」
「ええ、云ってごらんなさい」
「ぼくは子供のときから、あなたのことを夢に見ていたんです。起きていても見ることがあります。今日(きょう)も見ました。浜離宮で海を眺めていたんです。すると、空いっぱいに、あなたの、はだかのからだが現われたのです。オーロラのように美しかった。それがぼくの神様です。子供のときからの神様です。ねえ、ヒトミさん――そう云ってもいい?――ぼく、あなたのからだの中へはいりたい」
「まあ、どうしてはいるの?」
「ぼくが小さくなればいい。そして、あなたが、いつもの(まぼろし)のように大きくなればいい。そうすれば、あなたの美しい口から、おなかの中へはいって行く」
「可愛いのね。ほんとうに、可愛いのね」
 グーッと、彼女の両腕が、胸のまわりをしめつけてくるのがわかった。浩一は(くび)をねじむけて、女の顔を見た。あまり近くて全体は見えなかったが、花のような、濡れた唇がそこにあった。
 その時、二人は、ハッとしたように、顔を遠ざけて、互の目を見合った。けたたましくベルが鳴っている。さっきから鳴りつづけていたのを、やっと気づいたのだ。
「電話よ。ちょっと待っててね」
 肌ざわりのよいビロードのガウンが、フワッとして、婦人は寝室の中へ消えて行った。
 おし殺したような声で、二こと、三こと。もう彼女はドアのところへ現われていた。困ったように顔をしかめていた。
「すっかり忘れていたのよ。お友達と約束がしてあったの。今来るっていうのよ。もうこの近くまで来ているの。そのお友達にとっては、だいじな用件なので、すっぽかせないわ。ね、あすの晩来て下さらない」
 婦人はひどく(あわ)てているように見えた。そそくさと寝室の中へ引っ返して、何かを手に持って、浩一の前に来た。
「これお小遣、今夜はどこかに泊ってね。それから、これ、この部屋の合鍵(あいかぎ)。入口でことわらなくてもいいのよ。だまって二階にあがって、このドアをひらけばいいの。あすの晩九時よ。早くてもおそくてもいけない。ちょうど九時きっかりよ。わかって?」
 千円札が十枚ほどあった。そして可愛らしい銀色の合鍵。あすの晩、婦人が部屋にいるとすれば、別に合鍵の必要はなさそうであった。それとも、何か理由があったのか。あるいは、「合鍵を渡せば心を渡す」という、恋愛遊戯なのか。浩一はどちらでも構わなかった。合鍵というものの秘密性が好もしかった。それに、今夜はもう激情に耐えられなかった。あすの晩の方がいい。子供の頃からの幻に、やっとめぐり会ったのだ。生涯に一度の聖なる饗宴には、ゆっくり心の準備をしておかなければならない。それには、一日の余裕が望ましくさえあった。しかし、
「男の友達でしょう」
「まあ、やけるのね。うれしい。でも、そうじゃないの。女よ。女のうちではいっとう好きな人。その人の身の上に関係のある急ぎの用件なの。のばすわけには行かない」
 女のビロードの腕が、彼の首にまきついた。唇がじかにさわった。温かい、濡れた、(かお)りの高い花弁(かべん)が、グングンおしつけて来て、息もできなかった。からだじゅうがしびれて、気が遠くなりそうだった。
「九時キッカリよ。わけがあるの。忘れないで」
 ドアの外まで見送って、彼女はそれを、彼の耳のそばに、くりかえしささやいた。

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