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坊っちゃん(04)

时间: 2017-02-02    进入日语论坛
核心提示:(四) 学校には宿直があって、職員が代る代るこれをつとめる。但ただし狸たぬきと赤シャツは例外である。何でこの両人が当然の
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(四)
 学校には宿直があって、職員が代る代るこれをつとめる。但ただし狸たぬきと赤シャツは例外である。何でこの両人が当然の義務を免まぬかれるのかと聞いてみたら、奏任待遇そうにんたいぐうだからと云う。面白くもない。月給はたくさんとる、時間は少ない、それで宿直を逃のがれるなんて不公平があるものか。勝手な規則をこしらえて、それが当あたり前まえだというような顔をしている。よくまああんなにずうずうしく出来るものだ。これについては大分不平であるが、山嵐やまあらしの説によると、いくら一人ひとりで不平を並ならべたって通るものじゃないそうだ。一人だって二人ふたりだって正しい事なら通りそうなものだ。山嵐は might is right という英語を引いて説諭せつゆを加えたが、何だか要領を得ないから、聞き返してみたら強者の権利と云う意味だそうだ。強者の権利ぐらいなら昔むかしから知っている。今さら山嵐から講釈をきかなくってもいい。強者の権利と宿直とは別問題だ。狸や赤シャツが強者だなんて、誰だれが承知するものか。議論は議論としてこの宿直がいよいよおれの番に廻まわって来た。一体疳性かんしょうだから夜具蒲団やぐふとんなどは自分のものへ楽に寝ないと寝たような心持ちがしない。小供の時から、友達のうちへ泊とまった事はほとんどないくらいだ。友達のうちでさえ厭いやなら学校の宿直はなおさら厭だ。厭だけれども、これが四十円のうちへ籠こもっているなら仕方がない。我慢がまんして勤めてやろう。
 教師も生徒も帰ってしまったあとで、一人ぽかんとしているのは随分ずいぶん間が抜ぬけたものだ。宿直部屋は教場の裏手にある寄宿舎の西はずれの一室だ。ちょっとはいってみたが、西日をまともに受けて、苦しくって居たたまれない。田舎いなかだけあって秋がきても、気長に暑いもんだ。生徒の賄まかないを取りよせて晩飯を済ましたが、まずいには恐おそれ入いった。よくあんなものを食って、あれだけに暴れられたもんだ。それで晩飯を急いで四時半に片付けてしまうんだから豪傑ごうけつに違ちがいない。飯は食ったが、まだ日が暮くれないから寝ねる訳に行かない。ちょっと温泉に行きたくなった。宿直をして、外へ出るのはいい事だか、悪わるい事だかしらないが、こうつくねんとして重禁錮じゅうきんこ同様な憂目うきめに逢あうのは我慢の出来るもんじゃない。始めて学校へ来た時当直の人はと聞いたら、ちょっと用達ようたしに出たと小使こづかいが答えたのを妙みょうだと思ったが、自分に番が廻まわってみると思い当る。出る方が正しいのだ。おれは小使にちょっと出てくると云ったら、何かご用ですかと聞くから、用じゃない、温泉へはいるんだと答えて、さっさと出掛でかけた。赤手拭あかてぬぐいは宿へ忘れて来たのが残念だが今日は先方で借りるとしよう。
 それからかなりゆるりと、出たりはいったりして、ようやく日暮方ひぐれがたになったから、汽車へ乗って古町こまちの停車場ていしゃばまで来て下りた。学校まではこれから四丁だ。訳はないとあるき出すと、向うから狸が来た。狸はこれからこの汽車で温泉へ行こうと云う計画なんだろう。すたすた急ぎ足にやってきたが、擦すれ違ちがった時おれの顔を見たから、ちょっと挨拶あいさつをした。すると狸はあなたは今日は宿直ではなかったですかねえと真面目まじめくさって聞いた。なかったですかねえもないもんだ。二時間前おれに向って今夜は始めての宿直ですね。ご苦労さま。と礼を云ったじゃないか。校長なんかになるといやに曲りくねった言葉を使うもんだ。おれは腹が立ったから、ええ宿直です。宿直ですから、これから帰って泊る事はたしかに泊りますと云い捨てて済ましてあるき出した。竪町たてまちの四つ角までくると今度は山嵐やまあらしに出っ喰くわした。どうも狭せまい所だ。出てあるきさえすれば必ず誰かに逢う。「おい君は宿直じゃないか」と聞くから「うん、宿直だ」と答えたら、「宿直が無暗むやみに出てあるくなんて、不都合ふつごうじゃないか」と云った。「ちっとも不都合なもんか、出てあるかない方が不都合だ」と威張いばってみせた。「君のずぼらにも困るな、校長か教頭に出逢うと面倒めんどうだぜ」と山嵐に似合わない事を云うから「校長にはたった今逢った。暑い時には散歩でもしないと宿直も骨でしょうと校長が、おれの散歩をほめたよ」と云って、面倒臭くさいから、さっさと学校へ帰って来た。
 それから日はすぐくれる。くれてから二時間ばかりは小使を宿直部屋へ呼んで話をしたが、それも飽あきたから、寝られないまでも床とこへはいろうと思って、寝巻に着換きがえて、蚊帳かやを捲まくって、赤い毛布けっとを跳はねのけて、とんと尻持しりもちを突ついて、仰向あおむけになった。おれが寝るときにとんと尻持をつくのは小供の時からの癖くせだ。わるい癖だと云って小川町おがわまちの下宿に居た時分、二階下に居た法律学校の書生が苦情を持ち込こんだ事がある。法律の書生なんてものは弱い癖に、やに口が達者なもので、愚ぐな事を長たらしく述べ立てるから、寝る時にどんどん音がするのはおれの尻がわるいのじゃない。下宿の建築が粗末そまつなんだ。掛かケ合うなら下宿へ掛ケ合えと凹へこましてやった。この宿直部屋は二階じゃないから、いくら、どしんと倒たおれても構わない。なるべく勢いきおいよく倒れないと寝たような心持ちがしない。ああ愉快だと足をうんと延ばすと、何だか両足へ飛び付いた。ざらざらして蚤のみのようでもないからこいつあと驚おどろいて、足を二三度毛布けっとの中で振ふってみた。するとざらざらと当ったものが、急に殖ふえ出して脛すねが五六カ所、股ももが二三カ所、尻の下でぐちゃりと踏ふみ潰つぶしたのが一つ、臍へその所まで飛び上がったのが一つ――いよいよ驚ろいた。早速さっそく起き上あがって、毛布けっとをぱっと後ろへ抛ほうると、蒲団の中から、バッタが五六十飛び出した。正体の知れない時は多少気味が悪わるかったが、バッタと相場が極きまってみたら急に腹が立った。バッタの癖に人を驚ろかしやがって、どうするか見ろと、いきなり括くくり枕まくらを取って、二三度擲たたきつけたが、相手が小さ過ぎるから勢よく抛なげつける割に利目ききめがない。仕方がないから、また布団の上へ坐すわって、煤掃すすはきの時に蓙ござを丸めて畳たたみを叩たたくように、そこら近辺を無暗にたたいた。バッタが驚ろいた上に、枕の勢で飛び上がるものだから、おれの肩かただの、頭だの鼻の先だのへくっ付いたり、ぶつかったりする。顔へ付いた奴やつは枕で叩く訳に行かないから、手で攫つかんで、一生懸命に擲きつける。忌々いまいましい事に、いくら力を出しても、ぶつかる先が蚊帳だから、ふわりと動くだけで少しも手答がない。バッタは擲きつけられたまま蚊帳へつらまっている。死にもどうもしない。ようやくの事に三十分ばかりでバッタは退治たいじた。箒ほうきを持って来てバッタの死骸しがいを掃き出した。小使が来て何ですかと云うから、何ですかもあるもんか、バッタを床の中に飼かっとく奴がどこの国にある。間抜まぬけめ。と叱しかったら、私は存じませんと弁解をした。存じませんで済むかと箒を椽側えんがわへ抛ほうり出したら、小使は恐る恐る箒を担いで帰って行った。
 おれは早速寄宿生を三人ばかり総代に呼び出した。すると六人出て来た。六人だろうが十人だろうが構うものか。寝巻のまま腕うでまくりをして談判を始めた。
「なんでバッタなんか、おれの床の中へ入れた」
「バッタた何ぞな」と真先まっさきの一人がいった。やに落ち付いていやがる。この学校じゃ校長ばかりじゃない、生徒まで曲りくねった言葉を使うんだろう。
「バッタを知らないのか、知らなけりゃ見せてやろう」と云ったが、生憎あいにく掃き出してしまって一匹ぴきも居ない。また小使を呼んで、「さっきのバッタを持ってこい」と云ったら、「もう掃溜はきだめへ棄すててしまいましたが、拾って参りましょうか」と聞いた。「うんすぐ拾って来い」と云うと小使は急いで馳かけ出したが、やがて半紙の上へ十匹ばかり載のせて来て「どうもお気の毒ですが、生憎夜でこれだけしか見当りません。あしたになりましたらもっと拾って参ります」と云う。小使まで馬鹿ばかだ。おれはバッタの一つを生徒に見せて「バッタたこれだ、大きなずう体をして、バッタを知らないた、何の事だ」と云うと、一番左の方に居た顔の丸い奴が「そりゃ、イナゴぞな、もし」と生意気におれを遣やり込こめた。「篦棒べらぼうめ、イナゴもバッタも同じもんだ。第一先生を捕つらまえてなもした何だ。菜飯なめしは田楽でんがくの時より外に食うもんじゃない」とあべこべに遣り込めてやったら「なもしと菜飯とは違うぞな、もし」と云った。いつまで行ってもなもしを使う奴だ。
「イナゴでもバッタでも、何でおれの床の中へ入れたんだ。おれがいつ、バッタを入れてくれと頼たのんだ」
「誰も入れやせんがな」
「入れないものが、どうして床の中に居るんだ」
「イナゴは温ぬくい所が好きじゃけれ、大方一人でおはいりたのじゃあろ」
「馬鹿あ云え。バッタが一人でおはいりになるなんて――バッタにおはいりになられてたまるもんか。――さあなぜこんないたずらをしたか、云え」
「云えてて、入れんものを説明しようがないがな」
 けちな奴等やつらだ。自分で自分のした事が云えないくらいなら、てんでしないがいい。証拠しょうこさえ挙がらなければ、しらを切るつもりで図太く構えていやがる。おれだって中学に居た時分は少しはいたずらもしたもんだ。しかしだれがしたと聞かれた時に、尻込みをするような卑怯ひきょうな事はただの一度もなかった。したものはしたので、しないものはしないに極きまってる。おれなんぞは、いくら、いたずらをしたって潔白なものだ。嘘を吐ついて罰ばつを逃にげるくらいなら、始めからいたずらなんかやるものか。いたずらと罰はつきもんだ。罰があるからいたずらも心持ちよく出来る。いたずらだけで罰はご免蒙めんこうむるなんて下劣げれつな根性がどこの国に流行はやると思ってるんだ。金は借りるが、返す事はご免だと云う連中はみんな、こんな奴等が卒業してやる仕事に相違そういない。全体中学校へ何しにはいってるんだ。学校へはいって、嘘を吐いて、胡魔化ごまかして、陰かげでこせこせ生意気な悪いたずらをして、そうして大きな面で卒業すれば教育を受けたもんだと癇違かんちがいをしていやがる。話せない雑兵ぞうひょうだ。
 おれはこんな腐くさった了見りょうけんの奴等と談判するのは胸糞むなくそが悪わるいから、「そんなに云われなきゃ、聞かなくっていい。中学校へはいって、上品も下品も区別が出来ないのは気の毒なものだ」と云って六人を逐おっ放ぱなしてやった。おれは言葉や様子こそあまり上品じゃないが、心はこいつらよりも遥はるかに上品なつもりだ。六人は悠々ゆうゆうと引き揚あげた。上部うわべだけは教師のおれよりよっぽどえらく見える。実は落ち付いているだけなお悪るい。おれには到底とうていこれほどの度胸はない。
 それからまた床へはいって横になったら、さっきの騒動そうどうで蚊帳の中はぶんぶん唸うなっている。手燭てしょくをつけて一匹ずつ焼くなんて面倒な事は出来ないから、釣手つりてをはずして、長く畳たたんでおいて部屋の中で横竪よこたて十文字に振ふるったら、環かんが飛んで手の甲こうをいやというほど撲ぶった。三度目に床へはいった時は少々落ち付いたがなかなか寝られない。時計を見ると十時半だ。考えてみると厄介な所へ来たもんだ。一体中学の先生なんて、どこへ行っても、こんなものを相手にするなら気の毒なものだ。よく先生が品切れにならない。よっぽど辛防しんぼう強い朴念仁ぼくねんじんがなるんだろう。おれには到底やり切れない。それを思うと清きよなんてのは見上げたものだ。教育もない身分もない婆ばあさんだが、人間としてはすこぶる尊たっとい。今まではあんなに世話になって別段難有ありがたいとも思わなかったが、こうして、一人で遠国へ来てみると、始めてあの親切がわかる。越後えちごの笹飴ささあめが食いたければ、わざわざ越後まで買いに行って食わしてやっても、食わせるだけの価値は充分じゅうぶんある。清はおれの事を欲がなくって、真直まっすぐな気性だと云って、ほめるが、ほめられるおれよりも、ほめる本人の方が立派な人間だ。何だか清に逢いたくなった。
 清の事を考えながら、のつそつしていると、突然とつぜんおれの頭の上で、数で云ったら三四十人もあろうか、二階が落っこちるほどどん、どん、どんと拍子ひょうしを取って床板を踏みならす音がした。すると足音に比例した大きな鬨ときの声が起おこった。おれは何事が持ち上がったのかと驚ろいて飛び起きた。飛び起きる途端とたんに、ははあさっきの意趣返いしゅがえしに生徒があばれるのだなと気がついた。手前のわるい事は悪るかったと言ってしまわないうちは罪は消えないもんだ。わるい事は、手前達に覚おぼえがあるだろう。本来なら寝てから後悔こうかいしてあしたの朝でもあやまりに来るのが本筋だ。たとい、あやまらないまでも恐れ入って、静粛せいしゅくに寝ているべきだ。それを何だこの騒さわぎは。寄宿舎を建てて豚ぶたでも飼っておきあしまいし。気狂きちがいじみた真似まねも大抵たいていにするがいい。どうするか見ろと、寝巻のまま宿直部屋を飛び出して、楷子段はしごだんを三股半みまたはんに二階まで躍おどり上がった。すると不思議な事に、今まで頭の上で、たしかにどたばた暴れていたのが、急に静まり返って、人声どころか足音もしなくなった。これは妙だ。ランプはすでに消してあるから、暗くてどこに何が居るか判然と分わからないが、人気ひとけのあるとないとは様子でも知れる。長く東から西へ貫つらぬいた廊下ろうかには鼠ねずみ一匹ぴきも隠かくれていない。廊下のはずれから月がさして、遥か向うが際どく明るい。どうも変だ、おれは小供の時から、よく夢ゆめを見る癖があって、夢中むちゅうに跳ね起きて、わからぬ寝言を云って、人に笑われた事がよくある。十六七の時ダイヤモンドを拾った夢を見た晩なぞは、むくりと立ち上がって、そばに居た兄に、今のダイヤモンドはどうしたと、非常な勢いきおいで尋たずねたくらいだ。その時は三日ばかりうち中じゅうの笑い草になって大いに弱った。ことによると今のも夢かも知れない。しかしたしかにあばれたに違いないがと、廊下の真中まんなかで考え込んでいると、月のさしている向うのはずれで、一二三わあと、三四十人の声がかたまって響ひびいたかと思う間もなく、前のように拍子を取って、一同が床板ゆかいたを踏み鳴らした。それ見ろ夢じゃないやっぱり事実だ。静かにしろ、夜なかだぞ、とこっちも負けんくらいな声を出して、廊下を向うへ馳かけだした。おれの通る路みちは暗い、ただはずれに見える月あかりが目標めじるしだ。おれが馳け出して二間も来たかと思うと、廊下の真中で、堅かたい大きなものに向脛むこうずねをぶつけて、あ痛いが頭へひびく間に、身体はすとんと前へ抛ほうり出された。こん畜生ちきしょうと起き上がってみたが、馳けられない。気はせくが、足だけは云う事を利かない。じれったいから、一本足で飛んで来たら、もう足音も人声も静まり返って、森しんとしている。いくら人間が卑怯だって、こんなに卑怯に出来るものじゃない。まるで豚だ。こうなれば隠れている奴を引きずり出して、あやまらせてやるまではひかないぞと、心を極きめて寝室しんしつの一つを開けて中を検査しようと思ったが開かない。錠じょうをかけてあるのか、机か何か積んで立て懸かけてあるのか、押おしても、押しても決して開かない。今度は向う合せの北側の室へやを試みた。開かない事はやっぱり同然である。おれが戸を開けて中に居る奴を引っ捕つらまえてやろうと、焦慮いらってると、また東のはずれで鬨の声と足拍子が始まった。この野郎やろう申し合せて、東西相応じておれを馬鹿にする気だな、とは思ったがさてどうしていいか分らない。正直に白状してしまうが、おれは勇気のある割合に智慧ちえが足りない。こんな時にはどうしていいかさっぱりわからない。わからないけれども、決して負けるつもりはない。このままに済ましてはおれの顔にかかわる。江戸えどっ子は意気地いくじがないと云われるのは残念だ。宿直をして鼻垂はなったれ小僧こぞうにからかわれて、手のつけようがなくって、仕方がないから泣き寝入りにしたと思われちゃ一生の名折れだ。これでも元は旗本はたもとだ。旗本の元は清和源氏せいわげんじで、多田ただの満仲まんじゅうの後裔こうえいだ。こんな土百姓どびゃくしょうとは生まれからして違うんだ。ただ智慧のないところが惜しいだけだ。どうしていいか分らないのが困るだけだ。困ったって負けるものか。正直だから、どうしていいか分らないんだ。世の中に正直が勝たないで、外に勝つものがあるか、考えてみろ。今夜中に勝てなければ、あした勝つ。あした勝てなければ、あさって勝つ。あさって勝てなければ、下宿から弁当を取り寄せて勝つまでここに居る。おれはこう決心をしたから、廊下の真中へあぐらをかいて夜のあけるのを待っていた。蚊がぶんぶん来たけれども何ともなかった。さっき、ぶつけた向脛を撫なでてみると、何だかぬらぬらする。血が出るんだろう。血なんか出たければ勝手に出るがいい。そのうち最前からの疲つかれが出て、ついうとうと寝てしまった。何だか騒がしいので、眼めが覚めた時はえっ糞くそしまったと飛び上がった。おれの坐すわってた右側にある戸が半分あいて、生徒が二人、おれの前に立っている。おれは正気に返って、はっと思う途端に、おれの鼻の先にある生徒の足を引ひっ攫つかんで、力任せにぐいと引いたら、そいつは、どたりと仰向あおむけに倒れた。ざまを見ろ。残る一人がちょっと狼狽ろうばいしたところを、飛びかかって、肩を抑おさえて二三度こづき廻したら、あっけに取られて、眼をぱちぱちさせた。さあおれの部屋まで来いと引っ立てると、弱虫だと見えて、一も二もなく尾ついて来た。夜よはとうにあけている。
 おれが宿直部屋へ連れてきた奴を詰問きつもんし始めると、豚は、打ぶっても擲いても豚だから、ただ知らんがなで、どこまでも通す了見と見えて、けっして白状しない。そのうち一人来る、二人来る、だんだん二階から宿直部屋へ集まってくる。見るとみんな眠ねむそうに瞼まぶたをはらしている。けちな奴等だ。一晩ぐらい寝ないで、そんな面をして男と云われるか。面でも洗って議論に来いと云ってやったが、誰も面を洗いに行かない。
 おれは五十人あまりを相手に約一時間ばかり押問答おしもんどうをしていると、ひょっくり狸がやって来た。あとから聞いたら、小使が学校に騒動がありますって、わざわざ知らせに行ったのだそうだ。これしきの事に、校長を呼ぶなんて意気地がなさ過ぎる。それだから中学校の小使なんぞをしてるんだ。
 校長はひと通りおれの説明を聞いた。生徒の言草いいぐさもちょっと聞いた。追って処分するまでは、今まで通り学校へ出ろ。早く顔を洗って、朝飯を食わないと時間に間に合わないから、早くしろと云って寄宿生をみんな放免ほうめんした。手温てぬるい事だ。おれなら即席そくせきに寄宿生をことごとく退校してしまう。こんな悠長ゆうちょうな事をするから生徒が宿直員を馬鹿にするんだ。その上おれに向って、あなたもさぞご心配でお疲れでしょう、今日はご授業に及およばんと云うから、おれはこう答えた。「いえ、ちっとも心配じゃありません。こんな事が毎晩あっても、命のある間は心配にゃなりません。授業はやります、一晩ぐらい寝なくって、授業が出来ないくらいなら、頂戴ちょうだいした月給を学校の方へ割戻わりもどします」校長は何と思ったものか、しばらくおれの顔を見つめていたが、しかし顔が大分はれていますよと注意した。なるほど何だか少々重たい気がする。その上べた一面痒かゆい。蚊がよっぽと刺さしたに相違ない。おれは顔中ぼりぼり掻かきながら、顔はいくら膨はれたって、口はたしかにきけますから、授業には差し支つかえませんと答えた。校長は笑いながら、大分元気ですねと賞ほめた。実を云うと賞めたんじゃあるまい、ひやかしたんだろう。
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