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薤露行:  二 鏡(1)

时间: 2021-01-10    进入日语论坛
核心提示: ありのままなる浮世を見ず、鏡に写る浮世のみを見るシャロットの女は高き台(うてな)の中に只一人住む。活(い)ける世を鏡の裡(
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 ありのままなる浮世を見ず、鏡に写る浮世のみを見るシャロットの女は高き(うてな)の中に只一人住む。()ける世を鏡の(うち)にのみ知る者に、(おもて)を合わす友のあるべき由なし。
 春恋し、春恋しと(さえ)ずる鳥の数々に、耳(そばだ)てて()()隠れの翼の色を見んと思えば、窓に向わずして壁に切り込む鏡に向う。(あざ)やかに写る羽の色に日の色さえもそのままである。
 シャロットの野に麦刈る男、麦打つ女の歌にやあらん、谷を渡り水を渡りて、(かす)かなる音の高き台に他界の声の如く糸と細りて響く時、シャロットの女は傾けたる耳を(おお)うてまた鏡に向う。河のあなたに(けぶ)る柳の、果ては空とも野とも覚束(おぼつか)なき間より()()づる悲しき調(しらべ)と思えばなるべし。
 シャロットの(みち)行く人もまた(ことごと)くシャロットの女の鏡に写る。あるときは赤き帽の首打ち振りて馬追うさまも見ゆる。あるときは白き(ひげ)(ゆる)き衣を(まと)いて、長き(つえ)の先に小さき(ひさご)(くく)しつけながら行く巡礼姿も見える。又あるときは(かしら)よりただ一枚と思わるる真白の上衣(うわぎ)(かぶ)りて、眼口も手足も(しか)と分ちかねたるが、けたたましげに(かね)打ち鳴らして過ぎるも見ゆる。これは(らい)をやむ人の前世の(ごう)(みずか)ら世に告ぐる、むごき仕打ちなりとシャロットの女は知るすべもあらぬ。
 旅商人(たびあきゅうど)()に負える(つつみ)の中には赤きリボンのあるか、白き下着のあるか、珊瑚(さんご)瑪瑙(めのう)、水晶、真珠のあるか、包める中を照らさねば、中にあるものは鏡には写らず。写らねばシャロットの女の(ひとみ)には映ぜぬ。
 古き幾世を照らして、今の世にシャロットにありとある物を照らす。悉く照らして(えら)ぶ所なければシャロットの女の眼に映るものもまた限りなく多い。ただ影なれば写りては消え、消えては写る。鏡のうちに(なが)(とど)まる事は天に(かか)る日といえども(かた)い。()ける世の影なればかく()()なきか、あるいは活ける世が影なるかとシャロットの女は折々疑う事がある。明らさまに見ぬ世なれば影ともまこととも断じがたい。影なれば果敢なき姿を鏡にのみ見て不足はなかろう。影ならずば?――時にはむらむらと起る一念に窓際に()けよりて思うさま鏡の(ほか)なる世を見んと思い立つ事もある。シャロットの女の窓より眼を放つときはシャロットの女に(のろ)いのかかる時である。シャロットの女は鏡の限る天地のうちに跼蹐(きょくせき)せねばならぬ。一重隔て、二重隔てて、広き世界を四角に切るとも、自滅の期を寸時も早めてはならぬ。

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