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薤露行: 二 鏡(2)

时间: 2021-01-10    进入日语论坛
核心提示: 去れどありのままなる世は罪に濁ると聞く。住み倦(う)めば山に遯(のが)るる心安さもあるべし。鏡の裏(うち)なる狭き宇宙の小さ
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 去れどありのままなる世は罪に濁ると聞く。住み()めば山に(のが)るる心安さもあるべし。鏡の(うち)なる狭き宇宙の小さければとて、()き事の降りかかる十字の(ちまた)に立ちて、行き()う人に気を配る()らさはあらず。何者か因果の波を一たび起してより、万頃(ばんけい)の乱れは永劫(えいごう)を極めて尽きざるを、渦()く中に(かしら)をも、手をも、足をも(さら)われて、行くわれの(はて)は知らず。かかる人を賢しといわば、高き(うてな)に一人を住み古りて、しろかねの白き光りの、表とも裏とも分ちがたきあたりに、幻の世を尺に縮めて、あらん命を土さえ踏まで過すは阿呆(あほう)の極みであろう。わが見るは動く世ならず、動く世を動かぬ物の(たすけ)にて、よそながら(うかが)う世なり。活殺生死(かっさつしょうじ)乾坤(けんこん)定裏(じょうり)拈出(ねんしゅつ)して、五彩の色相を静中に描く世なり。かく観ずればこの女の運命もあながちに嘆くべきにあらぬを、シャロットの女は何に心を(さわ)がして窓の(そと)なる下界を見んとする。
 鏡の長さは五尺に足らぬ。黒鉄(くろがね)の黒きを(みが)いて本来の白きに帰すマーリンの術になるとか。魔法に名を得し彼のいう。――鏡の表に霧こめて、秋の日の上れども晴れぬ心地なるは不吉の兆なり。曇る(かがみ)の霧を含みて、芙蓉(ふよう)(した)たる音を()くとき、(むか)える人の身の上に危うき事あり。(けきぜん)(ゆえ)なきに響を起して、白き筋の横縦に鏡に浮くとき、その人末期(まつご)の覚悟せよ。――シャロットの女が幾年月(いくとしつき)の久しき間この鏡に向えるかは知らぬ。(あした)に向い(ゆうべ)に向い、日に向い月に向いて、()くちょう事のあるをさえ忘れたるシャロットの女の眼には、霧立つ事も、露置く事もあらざれば、まして裂けんとする(おそれ)ありとは夢にだも知らず。湛然(たんぜん)として音なき秋の水に臨むが如く、瑩朗(えいろう)たる(おもて)を過ぐる森羅(しんら)の影の、繽紛(ひんぷん)として去るあとは、太古の色なき(さかい)をまのあたりに現わす。無限上に徹する大空(たいくう)を鋳固めて、打てば音ある五尺の(うち)()し集めたるを――シャロットの女は夜ごと日ごとに見る。
 夜ごと日ごとに鏡に向える女は、夜ごと日ごとに鏡の(そば)に坐りて、夜ごと日ごとのを織る。ある時は明るきを織り、ある時は暗きを織る。
 シャロットの女の投ぐる()の音を聴く者は、(さび)しき(おか)の上に立つ、高き(うてな)の窓を恐る恐る見上げぬ事はない。親も逝き子も逝きて、新しき()にただ一人取り残されて、命長きわれを恨み顔なる年寄の如く見ゆるが、岡の上なるシャロットの女の住居(すまい)である。(つた)(とざ)す古き窓より()るる梭の音の、絶間(たえま)なき振子(しんし)の如く、日を刻むに急なる様なれど、その音はあの世の音なり。(しずか)なるシャロットには、空気さえ重たげにて、常ならば動くべしとも思われぬを、ただこの梭の音のみにそそのかされて、幽かにも震うか。淋しさは音なき時の淋しさにも(まさ)る。恐る恐る高き台を見上げたる行人(こうじん)は耳を(おお)うて走る。

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