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薤露行:三 袖(3)

时间: 2021-01-10    进入日语论坛
核心提示: 右手(めて)に捧(ささ)ぐる袖の光をしるべに、暗きをすりぬけてエレーンはわが部屋を出る。右に折れると兄の住居(すまい)、左を
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 右手(めて)(ささ)ぐる袖の光をしるべに、暗きをすりぬけてエレーンはわが部屋を出る。右に折れると兄の住居(すまい)、左を突き当れば今宵の客の寝所である。夢の如くなよやかなる女の姿は、地を踏まざるに歩めるか、影よりも静かにランスロットの室の前にとまる。――ランスロットの夢は成らず。
 聞くならくアーサー大王のギニヴィアを(めと)らんとして、心惑える折、()ながらに世の成行(なりゆき)を知るマーリンは、首を()りて慶事を(がえん)んぜず。この女(のち)に思わぬ人を慕う事あり、娶る君に(くい)あらん。とひたすらに(いさ)めしとぞ。聞きたる時の我に罪なければ思わぬ人の(たれ)なるかは知るべくもなく打ち過ぎぬ。思わぬ人の誰なるかを知りたる時、(あめ)(した)に数多く生れたるもののうちにて、この悲しき(さだめ)(めぐ)り合せたる我を恨み、このうれしき(さち)()けたる(おの)れを(よろこ)びて、楽みと苦みの(ないまじ)りたる縄を断たんともせず、この年月(としつき)を経たり。心()ましきは願わず。疚ましき中に蜜あるはうれし。疚ましければこそ蜜をも(かも)せと思う折さえあれば、卓を共にする騎士の我を疑うこの日に至るまで王妃を()てず。ただ疑の積もりて証拠(あかし)と凝らん時――ギニヴィアの捕われて(くい)に焼かるる時――この時を思えばランスロットの夢はいまだ成らず。
 眠られぬ戸に何物かちょと(さわ)った気合(けわい)である。枕を離るる(かしら)の、音する(かた)に、しばらくは振り向けるが、また元の如く落ち付いて、あとは古城の亡骸(なきがら)に脈も通わず。(しずか)である。
 再び障った音は、(ほと)んど(たた)いたというべくも高い。(たし)かに人ありと思い(きわ)めたるランスロットは、やおら身を臥所(ふしど)に起して、「たぞ」といいつつ戸を半ば引く。差しつくる蝋燭(ろうそく)の火のふき込められしが、取り直して今度は戸口に立てる乙女の(かた)にまたたく。乙女の顔は(かざ)せる赤き袖の影に隠れている。面映(おもはゆ)きは灯火(ともしび)のみならず。
「この深き()を……迷えるか」と男は驚きの舌を途切れ途切れに動かす。
「知らぬ路にこそ迷え。年古るく住みなせる家のうちを――(ねずみ)だに迷わじ」と女は微かなる声ながら、思い切って答える。
 男はただ怪しとのみ女の顔を打ち守る。女は尺に足らぬ紅絹(もみ)衝立(ついたて)に、花よりも美くしき顔をかくす。常に(まさ)豊頬(ほうきょう)の色は、()く血潮の()く流るるか、あざやかなる絹のたすけか。ただ隠しかねたる(びん)の毛の肩に乱れて、頭には白き薔薇を輪に貫ぬきて三輪()したり。
 白き香りの鼻を()って、絹の影なる花の数さえ見分けたる時、ランスロットの胸には忽ちギニヴィアの夢の話が湧き帰る。何故(なにゆえ)とは知らず、(ことごと)く身は()えて、手に持つ燭を取り落せるかと驚ろきて我に帰る。乙女はわが前に立てる人の心を読む由もあらず。

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