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薤露行:三 袖(2)

时间: 2021-01-10    进入日语论坛
核心提示: ランスロットは腕を扼(やく)して「それこそは」という。老人はなお言葉を継ぐ。「次男ラヴェンは健気(けなげ)に見ゆる若者にて
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 ランスロットは腕を(やく)して「それこそは」という。老人はなお言葉を継ぐ。
「次男ラヴェンは健気(けなげ)に見ゆる若者にてあるを、アーサー王の(もよおし)にかかる晴の仕合に参り合わせずば、騎士の身の口惜しかるべし。ただ君が栗毛の(ひづめ)のあとに()し連れよ。翌日(あす)を急げと彼に申し聞かせんほどに」
 ランスロットは何の思案もなく「心得たり」と心安げにいう。老人の(ほお)に畳める(しわ)のうちには、(うれ)しき波がしばらく動く。女ならずばわれも行かんと思えるはエレーンである。
 木に()るは(つた)、まつわりて幾世を離れず、(よい)()いて(あした)に分るる君と我の、われにはまつわるべき月日もあらず。(ほそ)き身の寄り添わば、幹吹く(あらし)に、根なしかずらと倒れもやせん。寄り添わずば、人知らずひそかに(くく)る恋の糸、振り切って君は去るべし。愛溶けて(まぶた)に余る、露の底なる光りを見ずや。わが住める(やかた)こそ古るけれ、春を知る事は生れて十八度に過ぎず。物の(あわ)れの胸に(みなぎ)るは、(とざ)せる雲の(おのずか)ら晴れて、(うらら)かなる日影の大地を渡るに異ならず。野をうずめ谷を(うず)めて千里の(ほか)に暖かき光りをひく。明かなる君が眉目(びもく)にはたと行き逢える今の(おもい)は、(あな)を出でて天下の春風(はるかぜ)に吹かれたるが如きを――言葉さえ()わさず、あすの別れとはつれなし。
 (しょく)尽きて(こう)(おし)めども、更尽きて客は()ねたり。寝ねたるあとにエレーンは、合わぬ瞼の間より男の姿の無理に(ひとみ)の奥に押し入らんとするを、幾たびか払い落さんと(つと)めたれど(せん)なし。強いて合わぬ目を合せて、この影を追わんとすれば、いつの間にかその人の姿は既に瞼の(うち)に潜む。苦しき夢に襲われて、世を恐ろしと思いし夜もある。(たま)()える(もの)()の話におののきて、眠らぬ耳に鶏の声をうれしと起き出でた事もある。去れど恐ろしきも苦しきも、皆われ安かれと願う心の反響に過ぎず。われという可愛(かわゆ)き者の前に夢の魔を置き、物の怪の(たた)りを据えての(おそれ)と苦しみである。今宵(こよい)の悩みはそれらにはあらず。我という個霊の消え()せて、求むれども(つい)に得がたきを、驚きて迷いて、果ては情なくてかくは乱るるなり。我を(つかさ)どるものの我にはあらで、先に見し人の姿なるを()しく、怪しく、悲しく念じ煩うなり。いつの間に我はランスロットと変りて常の心はいずこへか(うしな)える。エレーンとわが名を呼ぶに、応うるはエレーンならず、中庭に馬乗り捨てて、(ひさし)深き(かぶと)の奥より、高き(やぐら)を見上げたるランスロットである。再びエレーンと呼ぶにエレーンはランスロットじゃと答える。エレーンは()せてかと問えばありという。いずこにと聞けば知らぬという。エレーンは(かす)かなる毛孔(けあな)の末に潜みて、いつか昔しの様に帰らん。エレーンに八万四千の毛孔ありて、エレーンが八万四千()の香油を注いで、日にその(はだえ)(なめら)かにするとも、潜めるエレーンは遂に出現し(きた)()はなかろう。
 やがてわが部屋の戸帳(とばり)を開きて、エレーンは壁に()る長き(きぬ)を取り(いだ)す。燭にすかせば燃ゆる真紅の色なり。室にはびこる(よる)()んで、一枚の衣に真昼の日影を集めたる如く(あざや)かである。エレーンは衣の(えり)右手(めて)につるして、(しば)らくは(まば)ゆきものと(なが)めたるが、やがて左に握る短刀を(さや)ながら二、三度振る。からからと(ゆか)に音さして、すわという()(ひらめ)きは目を(かす)めて(くれない)深きうちに隠れる。見れば美しき衣の片袖は惜気もなく断たれて、残るは鞘の上にふわりと落ちる。途端に裸ながらの手燭(てしょく)は、風に打たれて()と消えた。外は片破月(かたわれづき)の空に()けたり。

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