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薤露行:四 罪(2)

时间: 2021-01-21    进入日语论坛
核心提示: 夫に二心(ふたごころ)なきを神の道との教(おしえ)は古るし。神の道に従うの心易きも知らずといわじ。心易きを自ら捨てて、捨て
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 夫に二心(ふたごころ)なきを神の道との(おしえ)は古るし。神の道に従うの心易きも知らずといわじ。心易きを自ら捨てて、捨てたる後の苦しみを(うれ)しと見しも君がためなり。春風(しゅんぷう)に心なく、花(おのずか)ら開く。花に罪ありとは(くだ)れる世の言の葉に過ぎず。恋を写す鏡の(あきらか)なるは鏡の徳なり。かく観ずる(うち)に、人にも世にも振り()てられたる時の慰藉(いしゃ)はあるべし。かく観ぜんと思い詰めたる今頃を、わが乗れる足台は(くつが)えされて、(くびす)(ささ)うるに一塵(いちじん)だになし。引き付けられたる鉄と磁石の、自然に引き付けられたれば(とが)も恐れず、世を(はばか)りの(せき)一重(ひとえ)あなたへ越せば、生涯の()(つき)はあるべしと念じたるに、引き寄せたる磁石は火打石と化して、吸われし鉄は無限の空裏を冥府(よみ)()つる。わが()わる床几の底抜けて、わが乗る壇の床(くず)れて、わが踏む大地の(こく)裂けて、己れを支うる者は悉く消えたるに等し。ギニヴィアは組める手を胸の前に合せたるまま、右左より骨も(くだ)けよと()す。片手に余る力を、片手に抜いて、苦しき胸の(もだえ)を人知れぬ(かた)()らさんとするなり。
「なに事ぞ」とアーサーは聞く。
「なに事とも知らず」と答えたるは、アーサーを欺けるにもあらず、また(おのれ)()いたるにもあらず。知らざるを知らずといえるのみ。まことはわが口にせる言葉すら知らぬ間に(のど)(まろ)()でたり。
 ひく(なみ)の返す時は、引く折の気色を忘れて、逆しまに岸を()(いきおい)の、前よりは(すさま)じきを、浪(みずか)らさえ驚くかと疑う。はからざる便りの胸を打ちて、度を失えるギニヴィアの、己れを忘るるまでわれに遠ざかれる後には、油然(ゆうぜん)として常よりも切なきわれに(かえ)る。何事も解せぬ風情(ふぜい)に、驚ろきの(まゆ)をわが額の上にあつめたるアーサーを、わが夫と悟れる時のギニヴィアの眼には、アーサーは(しば)らく前のアーサーにあらず。
 人を(きずつ)けたるわが罪を悔ゆるとき、傷負える人の傷ありと心付かぬ時ほど(くい)(はなはだ)しきはあらず。聖徒に向って(むち)を加えたる非の恐しきは、(むちう)てるものの身に()ね返る罰なきに、(みずか)らとその非を悔いたればなり。われを疑うアーサーの前に恥ずる心は、疑わぬアーサーの前に、わが罪を心のうちに鳴らすが如く痛からず。ギニヴィアは悚然(しょうぜん)として骨に徹する寒さを知る。
「人の身の上はわが上とこそ思え。人恋わぬ昔は知らず、(とつ)ぎてより幾夜か経たる。赤き袖の主のランスロットを思う事は、御身(おんみ)のわれを思う如くなるべし。贈り物あらば、われも十日を、二十日(はつか)を、帰るを、忘るべきに、(のの)しるは(いや)し」とアーサーは王妃の(かた)を見て不審の顔付である。
「美しき少女!」とギニヴィアは三たびエレーンの名を繰り返す。このたびは鋭どき声にあらず。去りとては(あわれ)を寄せたりとも見えず。
 アーサーは椅子に倚る身を半ば(めぐ)らしていう。「御身とわれと始めて逢える昔を知るか。(じょう)に余る石の十字を深く地に(うず)めたるに、(つた)()いかかる春の頃なり。(みち)に迷いて御堂(みどう)にしばし(いこ)わんと入れば、銀に(ちり)ばむ祭壇の前に、空色の(きぬ)を肩より流して、黄金(こがね)の髪に雲を起せるは()ぞ」
 女はふるえる声にて「ああ」とのみいう。(ゆか)しからぬにもあらぬ昔の、今は忘るるをのみ心易しと念じたる矢先に、忽然(こつぜん)と容赦もなく描き出されたるを堪えがたく思う。

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