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薤露行:四 罪(3)

时间: 2021-01-21    进入日语论坛
核心提示:「安からぬ胸に、捨てて行ける人の帰るを待つと、凋(しお)れたる声にてわれに語る御身の声をきくまでは、天(あま)つ下(くだ)れる
(单词翻译:双击或拖选)

「安からぬ胸に、捨てて行ける人の帰るを待つと、(しお)れたる声にてわれに語る御身の声をきくまでは、(あま)(くだ)れるマリヤのこの寺の神壇に立てりとのみ思えり」
 ()ける日は追えども帰らざるに逝ける事は(とこ)しえに暗きに葬むる(あた)わず。思うまじと誓える心に発矢(はっし)(あた)る古き火花もあり。
「伴いて館に帰し参らせんといえば、黄金の髪を動かして何処(いずこ)へとも、とうなずく……」と途中に句を切ったアーサーは、身を起して、両手にギニヴィアの頬を(おさ)えながら上より妃の顔を覗き込む。新たなる記憶につれて、新たなる愛の波が、一しきり打ち返したのであろう。――王妃の顔は(しかばね)(いだ)くが如く冷たい。アーサーは覚えず抑えたる手を放す。折から廻廊を遠く人の踏む音がして、(ののし)る如き幾多の声は次第にアーサーの室に(せま)る。
 入口に掛けたる厚き幕は(ふさ)に絞らず。長く垂れて床をかくす。かの足音の戸の近くしばらくとまる時、垂れたる幕を二つに裂いて、髪多く(たけ)高き一人の男があらわれた。モードレッドである。
 モードレッドは会釈もなく室の正面までつかつかと進んで、王の立てる壇の下にとどまる。続いて()るはアグラヴェン、(たく)ましき腕の、(ゆる)き袖を洩れて、(あか)(くび)の、かたく衣の(えり)(くく)られて、色さえ変るほど肉づける男である。二人の(あと)には物色する(いとま)なきに、どやどやと、我勝ちに乱れ入りて、モードレッドを一人(ひとり)前に、ずらりと並ぶ、数は(すべ)てにて十二人。何事かなくては(かな)わぬ。
 モードレッドは、王に向って会釈せる(かしら)(もた)げて、そこ力のある声にていう。「罪あるを罰するは王者(おうしゃ)の事か」
「問わずもあれ」と答えたアーサーは今更という面持(おももち)である。
「罪あるは高きをも辞せざるか」とモードレッドは再び王に向って問う。
 アーサーは我とわが胸を(たた)いて「黄金の冠は(よこしま)の頭に(いただ)かず。天子の衣は悪を隠さず」と壇上に延び上る。肩に(くく)()の衣の、裾は開けて、白き裏が雪の如く光る。
「罪あるを許さずと誓わば、君が(かたえ)に坐せる女をも許さじ」とモードレッドは(おく)する気色もなく、一指を挙げてギニヴィアの眉間(みけん)()す。ギニヴィアは()と立ち上る。
 茫然(ぼうぜん)たるアーサーは雷火に打たれたる(おし)の如く、わが前に立てる人――地を()き出でし(いわお)とばかり立てる人――を見守る。口を開けるはギニヴィアである。
「罪ありと我を()いるか。何をあかしに、何の罪を数えんとはする。(いつわ)りは天も照覧あれ」と(ほそ)き手を抜け出でよと空高く挙げる。
「罪は一つ。ランスロットに聞け。あかしはあれぞ」と(たか)の眼を後ろに投ぐれば、並びたる十二人は悉く右の手を高く差し上げつつ、「神も知る、罪は(のが)れず」と口々にいう。
 ギニヴィアは倒れんとする身を、危く壁掛に(たす)けて「ランスロット!」と(かすか)に叫ぶ。王は迷う。肩に(まつ)わる緋の衣の裏を半ば返して、右手(めて)(たなごころ)を十三人の騎士に向けたるままにて迷う。
 この時館の中に「黒し、黒し」と叫ぶ声が(せきちょう)(ひびき)(かえ)して、窈然(ようぜん)と遠く鳴る木枯(こがらし)の如く伝わる。やがて河に臨む水門を、天にひびけと、()びたる鉄鎖に(きし)らせて開く音がする。室の中なる人々は顔と顔を見合わす。只事(ただごと)ではない。

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