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草枕 八(3)

时间: 2021-02-22    进入日语论坛
核心提示:「どの青磁を――うん、あの菓子鉢かな。あれは、わしも好(すき)じゃ。時にあなた、西洋画では襖(ふすま)などはかけんものかな。
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「どの青磁を――うん、あの菓子鉢かな。あれは、わしも(すき)じゃ。時にあなた、西洋画では(ふすま)などはかけんものかな。かけるなら一つ頼みたいがな」
 かいてくれなら、かかぬ事もないが、この和尚(おしょう)の気に()るか入らぬかわからない。せっかく骨を折って、西洋画は駄目だなどと云われては、骨の折栄(おりばえ)がない。
「襖には向かないでしょう」
「向かんかな。そうさな、この(あいだ)の久一さんの()のようじゃ、少し派手(はで)過ぎるかも知れん」
「私のは駄目です。あれはまるでいたずらです」と若い男はしきりに、(はず)かしがって謙遜(けんそん)する。
「その何とか云う池はどこにあるんですか」と余は若い男に念のため尋ねて置く。
「ちょっと観海寺の裏の谷の所で、幽邃(ゆうすい)な所です。――なあに学校にいる時分、習ったから、退屈まぎれに、やって見ただけです」
「観海寺と云うと……」
「観海寺と云うと、わしのいる所じゃ。いい所じゃ、海を一目(ひとめ)見下(みおろ)しての――まあ逗留(とうりゅう)中にちょっと来て御覧。なに、ここからはつい五六丁よ。あの廊下から、そら、寺の石段が見えるじゃろうが」
「いつか御邪魔に(あが)ってもいいですか」
「ああいいとも、いつでもいる。ここの御嬢さんも、よう、来られる。――御嬢さんと云えば今日は御那美(おなみ)さんが見えんようだが――どうかされたかな、隠居さん」
「どこぞへ出ましたかな、久一(きゅういち)、御前の方へ行きはせんかな」
「いいや、見えません」
「また(ひと)り散歩かな、ハハハハ。御那美さんはなかなか足が強い。この(あいだ)法用で礪並(となみ)まで行ったら、姿見橋(すがたみばし)の所で――どうも、善く似とると思ったら、御那美さんよ。尻を端折(はしょ)って、草履(ぞうり)穿()いて、和尚(おしょう)さん、何をぐずぐず、どこへ行きなさると、いきなり、驚ろかされたて、ハハハハ。御前はそんな形姿(なり)地体(じたい)どこへ、行ったのぞいと聴くと、今芹摘(せりつ)みに行った戻りじゃ、和尚さん少しやろうかと云うて、いきなりわしの(たもと)(どろ)だらけの芹を押し込んで、ハハハハハ」
「どうも、……」と老人は苦笑(にがわら)いをしたが、急に立って「実はこれを御覧に入れるつもりで」と話をまた道具の方へそらした。
 老人が紫檀(したん)の書架から、(うやうや)しく取り(おろ)した紋緞子(もんどんす)の古い袋は、何だか重そうなものである。
「和尚さん、あなたには、御目に()けた事があったかな」
「なんじゃ、一体」
(すずり)よ」
「へえ、どんな硯かい」
山陽(さんよう)の愛蔵したと云う……」
「いいえ、そりゃまだ見ん」
春水(しゅんすい)の替え(ぶた)がついて……」
「そりゃ、まだのようだ。どれどれ」
 老人は大事そうに緞子の袋の口を解くと、小豆色(あずきいろ)の四角な石が、ちらりと(かど)を見せる。
「いい色合(いろあい)じゃのう。端渓(たんけい)かい」
「端渓で(くよくがん)(ここの)つある」
「九つ?」と和尚(おおい)に感じた様子である。
「これが春水の替え蓋」と老人は綸子(りんず)で張った薄い蓋を見せる。上に春水の字で七言絶句(しちごんぜっく)が書いてある。
「なるほど。春水はようかく。ようかくが、(しょ)杏坪(きょうへい)の方が上手(じょうず)じゃて」
「やはり杏坪の方がいいかな」
山陽(さんよう)が一番まずいようだ。どうも才子肌(さいしはだ)俗気(ぞくき)があって、いっこう面白うない」
「ハハハハ。和尚(おしょう)さんは、山陽が(きら)いだから、今日は山陽の(ふく)を懸け()えて置いた」

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