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草枕 八(5)

时间: 2021-02-22    进入日语论坛
核心提示: 若い男は気の毒そうに、老人の顔を見る。老人は少々不機嫌の体(てい)に蓋を払いのけた。下からいよいよ硯(すずり)が正体(しょ
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 若い男は気の毒そうに、老人の顔を見る。老人は少々不機嫌の(てい)に蓋を払いのけた。下からいよいよ(すずり)正体(しょうたい)をあらわす。
 もしこの硯について人の眼を(そばだ)つべき特異の点があるとすれば、その表面にあらわれたる匠人(しょうじん)(こく)である。真中(まんなか)袂時計(たもとどけい)ほどな丸い肉が、(ふち)とすれすれの高さに()り残されて、これを蜘蛛(くも)()(かた)どる。中央から四方に向って、八本の足が彎曲(わんきょく)して走ると見れば、先には(おのおの)(くよくがん)(かか)えている。残る一個は背の真中に、()(しる)をしたたらしたごとく煮染(にじ)んで見える。背と足と縁を残して余る部分はほとんど一寸余の深さに掘り下げてある。墨を(たた)える所は、よもやこの塹壕(ざんごう)の底ではあるまい。たとい一合の水を注ぐともこの深さを()たすには足らぬ。思うに水盂(すいう)(うち)から、一滴の水を銀杓(ぎんしゃく)にて、蜘蛛(くも)の背に落したるを、(とうと)き墨に()り去るのだろう。それでなければ、名は硯でも、その実は純然たる文房用(ぶんぼうよう)の装飾品に過ぎぬ。
 老人は(よだれ)の出そうな口をして云う。
「この肌合(はだあい)と、この(がん)を見て下さい」
 なるほど見れば見るほどいい色だ。寒く潤沢(じゅんたく)を帯びたる肌の上に、はっと、一息懸(ひといきか)けたなら、(ただ)ちに()って、一朶(いちだ)の雲を起すだろうと思われる。ことに驚くべきは眼の色である。眼の色と云わんより、眼と地の相交(あいまじ)わる所が、次第に色を取り替えて、いつ取り替えたか、ほとんど吾眼(わがめ)(あざむ)かれたるを見出し得ぬ事である。形容して見ると紫色の蒸羊羹(むしようかん)の奥に、隠元豆(いんげんまめ)を、()いて見えるほどの深さに()め込んだようなものである。眼と云えば一個二個でも大変に珍重される。九個と云ったら、ほとんど(るい)はあるまい。しかもその九個が整然と同距離に按排(あんばい)されて、あたかも人造のねりものと見違えらるるに至ってはもとより天下の逸品(いっぴん)をもって許さざるを得ない。
「なるほど結構です。()て心持がいいばかりじゃありません。こうして(さわ)っても愉快です」と云いながら、余は隣りの若い男に硯を渡した。
久一(きゅういち)に、そんなものが解るかい」と老人が笑いながら聞いて見る。久一君は、少々自棄(やけ)の気味で、
「分りゃしません」と打ち()ったように云い放ったが、わからん硯を、自分の前へ置いて、(なが)めていては、もったいないと気がついたものか、また取り上げて、余に返した。余はもう一(ぺん)丁寧に()で廻わした(のち)、とうとうこれを(うやうや)しく禅師(ぜんじ)に返却した。禅師はとくと()の上で見済ました末、それでは()き足らぬと考えたと見えて、鼠木綿(ねずみもめん)の着物の(そで)を容赦なく蜘蛛(くも)の背へこすりつけて、光沢(つや)の出た所をしきりに賞翫(しょうがん)している。
「隠居さん、どうもこの色が実に()いな。使うた事があるかの」
「いいや、滅多(めった)には使いとう、ないから、まだ買うたなりじゃ」
「そうじゃろ。こないなのは支那(しな)でも珍らしかろうな、隠居さん」
左様(さよう)
「わしも一つ欲しいものじゃ。何なら久一さんに頼もうか。どうかな、買うて来ておくれかな」
「へへへへ。(すずり)を見つけないうちに、死んでしまいそうです」
「本当に硯どころではないな。時にいつ御立ちか」
二三日(にさんち)うちに立ちます」
「隠居さん。吉田まで送って御やり」
「普段なら、年は取っとるし、まあ見合(みあわ)すところじゃが、ことによると、もう()えんかも、知れんから、送ってやろうと思うております」
御伯父(おじ)さんは送ってくれんでもいいです」
 若い男はこの老人の(おい)と見える。なるほどどこか似ている。
「なあに、送って貰うがいい。川船(かわふね)で行けば訳はない。なあ隠居さん」
「はい、山越(やまごし)では難義だが、廻り路でも船なら……」
 若い男は今度は別に辞退もしない。ただ黙っている。
「支那の方へおいでですか」と余はちょっと聞いて見た。
「ええ」
 ええの二字では少し物足らなかったが、その上掘って聞く必要もないから(ひか)えた。障子(しょうじ)を見ると、(らん)の影が少し位置を変えている。
「なあに、あなた。やはり今度の戦争で――これがもと志願兵をやったものだから、それで召集されたので」
 老人は当人に代って、満洲の()に日ならず出征すべきこの青年の運命を余に()げた。この夢のような詩のような春の里に、()くは鳥、落つるは花、()くは温泉(いでゆ)のみと思い()めていたのは間違である。現実世界は山を越え、海を越えて、平家(へいけ)後裔(こうえい)のみ住み古るしたる孤村にまで(せま)る。朔北(さくほく)曠野(こうや)を染むる血潮の何万分の一かは、この青年の動脈から(ほとばし)る時が来るかも知れない。この青年の腰に()る長き(つるぎ)の先から煙りとなって吹くかも知れない。しかしてその青年は、夢みる事よりほかに、何らの価値を、人生に認め得ざる一画工の隣りに坐っている。耳をそばだつれば彼が胸に打つ心臓の鼓動さえ聞き得るほど近くに坐っている。その鼓動のうちには、百里の平野を()く高き(うしお)が今すでに響いているかも知れぬ。運命は卒然(そつぜん)としてこの二人を一堂のうちに会したるのみにて、その他には何事をも語らぬ。

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