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草枕 九(4)

时间: 2021-02-22    进入日语论坛
核心提示: 余は何と答えてよいやらちょっと挨拶(あいさつ)が出なかった。女はすかさず、「そんな忘れっぽい人に、いくら実(じつ)をつくし
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 余は何と答えてよいやらちょっと挨拶(あいさつ)が出なかった。女はすかさず、
「そんな忘れっぽい人に、いくら(じつ)をつくしても駄目ですわねえ」と(あざ)けるごとく、(うら)むがごとく、また真向(まっこう)から切りつけるがごとく二の矢をついだ。だんだん旗色(はたいろ)がわるくなるが、どこで盛り返したものか、いったん機先を制せられると、なかなか(すき)を見出しにくい。
「じゃ昨夕(ゆうべ)の風呂場も、全く御親切からなんですね」と(きわ)どいところでようやく立て直す。
 女は黙っている。
「どうも済みません。御礼に何を上げましょう」と出来るだけ先へ出て置く。いくら出ても何の利目(ききめ)もなかった。女は何喰わぬ顔で大徹和尚(だいてつおしょう)の額を(なが)めている。やがて、
竹影(ちくえい)払階(かいをはらって)塵不動(ちりうごかず)
と口のうちで静かに読み(おわ)って、また余の方へ向き直ったが、急に思い出したように、
「何ですって」
と、わざと大きな声で聞いた。その手は喰わない。
「その坊主にさっき()いましたよ」と地震に()れた池の水のように円満な動き方をして見せる。
観海寺(かんかいじ)の和尚ですか。(ふと)ってるでしょう」
「西洋画で唐紙(からかみ)をかいてくれって、云いましたよ。禅坊さんなんてものは随分(わけ)のわからない事を云いますね」
「それだから、あんなに肥れるんでしょう」
「それから、もう一人若い人に逢いましたよ。……」
久一(きゅういち)でしょう」
「ええ久一君です」
「よく御存じです事」
「なに久一君だけ知ってるんです。そのほかには何にも知りゃしません。口を聞くのが(きらい)な人ですね」
「なに、遠慮しているんです。まだ小供ですから……」
「小供って、あなたと同じくらいじゃありませんか」
「ホホホホそうですか。あれは(わたく)しの従弟(いとこ)ですが、今度戦地へ行くので、暇乞(いとまごい)に来たのです」
「ここに(とま)って、いるんですか」
「いいえ、兄の(うち)におります」
「じゃ、わざわざ御茶を飲みに来た訳ですね」
「御茶より御白湯(おゆ)の方が(すき)なんですよ。父がよせばいいのに、呼ぶものですから。麻痺(しびれ)が切れて困ったでしょう。私がおれば中途から帰してやったんですが……」
「あなたはどこへいらしったんです。和尚(おしょう)が聞いていましたぜ、また一人(ひとり)散歩かって」
「ええ鏡の池の方を廻って来ました」
「その鏡の池へ、わたしも行きたいんだが……」
「行って御覧なさい」
()にかくに好い所ですか」
「身を投げるに好い所です」
「身はまだなかなか投げないつもりです」
「私は近々(きんきん)投げるかも知れません」
 余りに女としては思い切った冗談(じょうだん)だから、余はふと顔を上げた。女は存外たしかである。
「私が身を投げて浮いているところを――苦しんで浮いてるところじゃないんです――やすやすと往生して浮いているところを――奇麗な画にかいて下さい」
「え?」
「驚ろいた、驚ろいた、驚ろいたでしょう」
 女はすらりと立ち上る。三歩にして尽くる部屋の入口を出るとき、(かえり)みてにこりと笑った。茫然(ぼうぜん)たる事多時(たじ)

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