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草枕 十(3)

时间: 2021-02-22    进入日语论坛
核心提示: がさりがさりと足音がする。胸裏(きょうり)の図案は三分(ぶ)二で崩(くず)れた。見ると、筒袖(つつそで)を着た男が、背(せ)へ薪
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 がさりがさりと足音がする。胸裏(きょうり)の図案は三()二で(くず)れた。見ると、筒袖(つつそで)を着た男が、()(まき)()せて、熊笹(くまざさ)のなかを観海寺の方へわたってくる。隣りの山からおりて来たのだろう。
「よい御天気で」と手拭(てぬぐい)をとって挨拶(あいさつ)する。腰を(かが)める途端(とたん)に、三尺帯に(おと)した(なた)()がぴかりと光った。四十恰好(がっこう)(たくま)しい男である。どこかで見たようだ。男は旧知のように馴々(なれなれ)しい。
旦那(だんな)も画を御描(おか)きなさるか」余の絵の具箱は()けてあった。
「ああ。この池でも()こうと思って来て見たが、(さみ)しい所だね。誰も通らない」
「はあい。まことに山の中で……旦那あ、(とうげ)御降(おふ)られなさって、さぞ御困りでござんしたろ」
「え? うん御前(おまえ)はあの時の馬子(まご)さんだね」
「はあい。こうやって(たきぎ)を切っては城下(じょうか)へ持って出ます」と源兵衛は荷を(おろ)して、その上へ腰をかける。煙草入(たばこいれ)を出す。古いものだ。紙だか(かわ)だか分らない。余は寸燐(マッチ)()してやる。
「あんな所を毎日越すなあ大変だね」
「なあに、馴れていますから――それに毎日は越しません。三日(みっか)に一(ぺん)、ことによると四日目(よっかめ)くらいになります」
「四日に一(ぺん)でも御免だ」
「アハハハハ。馬が不憫(ふびん)ですから四日目くらいにして置きます」
「そりゃあ、どうも。自分より馬の方が大事なんだね。ハハハハ」
「それほどでもないんで……」
「時にこの池はよほど古いもんだね。全体いつ頃からあるんだい」
「昔からありますよ」
「昔から? どのくらい昔から?」
「なんでもよっぽど古い昔から」
「よっぽど古い昔しからか。なるほど」
「なんでも昔し、志保田(しほだ)の嬢様が、身を投げた時分からありますよ」
「志保田って、あの温泉場(ゆば)のかい」
「はあい」
「御嬢さんが身を投げたって、現に達者でいるじゃないか」
「いんにえ。あの嬢さまじゃない。ずっと昔の嬢様が」
「ずっと昔の嬢様。いつ頃かね、それは」
「なんでも、よほど昔しの嬢様で……」
「その昔の嬢様が、どうしてまた身を投げたんだい」
「その嬢様は、やはり今の嬢様のように美しい嬢様であったそうながな、旦那様」
「うん」
「すると、ある日、一人(ひとり)梵論字(ぼろんじ)が来て……」
「梵論字と云うと虚無僧(こもそう)の事かい」
「はあい。あの尺八を吹く梵論字の事でござんす。その梵論字が志保田の庄屋(しょうや)逗留(とうりゅう)しているうちに、その美くしい嬢様が、その梵論字を見染(みそ)めて――因果(いんが)と申しますか、どうしてもいっしょになりたいと云うて、泣きました」
「泣きました。ふうん」
「ところが庄屋どのが、聞き入れません。梵論字は(むこ)にはならんと云うて。とうとう追い出しました」
「その虚無僧(こもそう)[#ルビの「こもそう」は底本では「こむそう」]をかい」
「はあい。そこで嬢様が、梵論字のあとを追うてここまで来て、――あの向うに見える松の所から、身を投げて、――とうとう、えらい騒ぎになりました。その時何でも一枚の鏡を持っていたとか申し伝えておりますよ。それでこの池を今でも鏡が池と申しまする」
「へええ。じゃ、もう身を投げたものがあるんだね」
「まことに()しからん事でござんす」
「何代くらい前の事かい。それは」
「なんでもよっぽど昔の事でござんすそうな。それから――これはここ限りの話だが、旦那さん」
「何だい」
「あの志保田の家には、代々(だいだい)気狂(きちがい)が出来ます」
「へええ」
「全く(たた)りでござんす。今の嬢様も、近頃は少し変だ云うて、皆が(はや)します」
「ハハハハそんな事はなかろう」
「ござんせんかな。しかしあの御袋様(おふくろさま)がやはり少し変でな」
「うちにいるのかい」


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