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草枕 十一(2)

时间: 2021-02-22    进入日语论坛
核心提示: 仰数(あおぎかぞう)春星(しゅんせい)一二三の句を得て、石磴(せきとう)を登りつくしたる時、朧(おぼろ)にひかる春の海が帯のご
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 仰数(あおぎかぞう)春星(しゅんせい)一二三の句を得て、石磴(せきとう)を登りつくしたる時、(おぼろ)にひかる春の海が帯のごとくに見えた。山門を入る。絶句(ぜっく)(まと)める気にならなくなった。即座にやめにする方針を立てる。
 石を(たた)んで庫裡(くり)に通ずる一筋道の右側は、岡つつじの生垣(いけがき)で、垣の(むこう)は墓場であろう。左は本堂だ。屋根瓦(やねがわら)が高い所で、(かす)かに光る。数万の(いらか)に、数万の月が落ちたようだと見上(みあげ)る。どこやらで鳩の声がしきりにする。(むね)の下にでも住んでいるらしい。気のせいか、(ひさし)のあたりに白いものが、点々見える。(ふん)かも知れぬ。
 雨垂(あまだ)れ落ちの所に、妙な影が一列に並んでいる。木とも見えぬ、草では無論ない。感じから云うと岩佐又兵衛(いわさまたべえ)のかいた、(おに)念仏(ねんぶつ)が、念仏をやめて、踊りを踊っている姿である。本堂の(はじ)から端まで、一列に行儀よく並んで(おど)っている。その影がまた本堂の端から端まで一列に行儀よく並んで躍っている。朧夜(おぼろよ)にそそのかされて、(かね)撞木(しゅもく)も、奉加帳(ほうがちょう)も打ちすてて、(さそ)(あわ)せるや否やこの山寺(やまでら)へ踊りに来たのだろう。
 近寄って見ると大きな覇王樹(さぼてん)である。高さは七八尺もあろう、糸瓜(へちま)ほどな青い黄瓜(きゅうり)を、杓子(しゃもじ)のように()しひしゃげて、()の方を下に、上へ上へと()(あわ)せたように見える。あの杓子がいくつ(つな)がったら、おしまいになるのか分らない。今夜のうちにも(ひさし)を突き破って、屋根瓦の上まで出そうだ。あの杓子が出来る時には、何でも不意に、どこからか出て来て、ぴしゃりと飛びつくに違いない。古い杓子が新しい小杓子を生んで、その小杓子が長い年月のうちにだんだん大きくなるようには思われない。杓子と杓子の連続がいかにも突飛(とっぴ)である。こんな滑稽(こっけい)()はたんとあるまい。しかも澄ましたものだ。いかなるこれ(ぶつ)と問われて、庭前(ていぜん)柏樹子(はくじゅし)と答えた僧があるよしだが、もし同様の問に接した場合には、余は一も二もなく、月下(げっか)覇王樹(はおうじゅ)(こた)えるであろう。
 少時(しょうじ)晁補之(ちょうほし)と云う人の記行文を読んで、いまだに暗誦(あんしょう)している句がある。「時に九月天高く露清く、山(むな)しく、月(あきら)かに、仰いで星斗(せいと)()れば(みな)光大(ひかりだい)、たまたま人の上にあるがごとし、窓間(そうかん)(たけ)数十竿(かん)、相摩戞(まかつ)して声切々(せつせつ)やまず。竹間(ちくかん)梅棕(ばいそう)森然(しんぜん)として鬼魅(きび)離立笑(りりつしょうひん)(じょう)のごとし。二三子相顧(あいかえり)み、(はく)動いて(いぬ)るを得ず。遅明(ちめい)皆去る」とまた口の内で繰り返して見て、思わず笑った。この覇王樹(さぼてん)も時と場合によれば、余の(はく)を動かして、見るや否や山を追い下げたであろう。(とげ)に手を触れて見ると、いらいらと指をさす。
 石甃(いしだたみ)を行き尽くして左へ折れると庫裏(くり)へ出る。庫裏の前に大きな木蓮(もくれん)がある。ほとんど()(かかえ)もあろう。高さは庫裏の屋根を抜いている。見上げると頭の上は枝である。枝の上も、また枝である。そうして枝の重なり合った上が月である。普通、枝がああ重なると、下から空は見えぬ。花があればなお見えぬ。木蓮の枝はいくら重なっても、枝と枝の間はほがらかに()いている。木蓮は樹下に立つ人の眼を乱すほどの細い枝をいたずらには張らぬ。花さえ(あきら)かである。この遥かなる下から見上げても一輪の花は、はっきりと一輪に見える。その一輪がどこまで(むら)がって、どこまで咲いているか分らぬ。それにもかかわらず一輪はついに一輪で、一輪と一輪の間から、薄青い空が判然(はんぜん)と望まれる。花の色は無論純白ではない。いたずらに白いのは寒過ぎる。(もっぱ)らに白いのは、ことさらに人の眼を奪う(たく)みが見える。木蓮の色はそれではない。極度の白きをわざと()けて、あたたかみのある淡黄(たんこう)に、奥床(おくゆか)しくも(みずか)らを卑下(ひげ)している。余は石甃(いしだたみ)の上に立って、このおとなしい花が累々(るいるい)とどこまでも空裏(くうり)(はびこ)(さま)を見上げて、しばらく茫然(ぼうぜん)としていた。眼に落つるのは花ばかりである。葉は一枚もない。

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