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草枕 十二(8)

时间: 2021-03-09    进入日语论坛
核心提示: 二人の姿勢がかくのごとく美妙(びみょう)な調和を保(たも)っていると同時に、両者の顔と、衣服にはあくまで、対照が認められる
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 二人の姿勢がかくのごとく美妙(びみょう)な調和を(たも)っていると同時に、両者の顔と、衣服にはあくまで、対照が認められるから、画として見ると一層の興味が深い。
 ()のずんぐりした、色黒の、(ひげ)づらと、くっきり(しま)った細面(ほそおもて)に、(えり)の長い、撫肩(なでがた)の、華奢(きゃしゃ)姿。ぶっきらぼうに身をひねった下駄がけの野武士と、不断着(ふだんぎ)銘仙(めいせん)さえしなやかに着こなした上、腰から上を、おとなしく()り身に控えたる痩形(やさすがた)。はげた茶の帽子に、藍縞(あいじま)尻切(しりき)出立(でだ)ちと、陽炎(かげろう)さえ燃やすべき櫛目(くしめ)の通った(びん)の色に、黒繻子(くろじゅす)のひかる奥から、ちらりと見せた帯上(おびあげ)の、なまめかしさ。すべてが好画題(こうがだい)である。
 男は手を出して財布を受け取る。引きつ引かれつ(たく)みに平均を保ちつつあった二人の位置はたちまち(くず)れる。女はもう引かぬ、男は引かりょうともせぬ。心的状態が絵を構成する上に、かほどの影響を与えようとは、画家ながら、今まで気がつかなかった。
 二人は左右へ分かれる。双方に気合(きあい)がないから、もう画としては、支離滅裂(しりめつれつ)である。雑木林(ぞうきばやし)の入口で男は一度振り返った。女は(あと)をも見ぬ。すらすらと、こちらへ歩行(あるい)てくる。やがて余の真正面(ましょうめん)まで来て、
「先生、先生」
二声(ふたこえ)掛けた。これはしたり、いつ目付(めっ)かったろう。
「何です」
と余は木瓜(ぼけ)の上へ顔を出す。帽子は草原へ落ちた。
「何をそんな所でしていらっしゃる」
「詩を作って()ていました」
「うそをおっしゃい。今のを御覧でしょう」
「今の? 今の、あれですか。ええ。少々拝見しました」
「ホホホホ少々でなくても、たくさん御覧なさればいいのに」
「実のところはたくさん拝見しました」
「それ御覧なさい。まあちょっと、こっちへ出ていらっしゃい。木瓜の中から出ていらっしゃい」
 余は唯々(いい)として木瓜の中から出て行く。
「まだ木瓜の中に御用があるんですか」
「もう無いんです。帰ろうかとも思うんです」
「それじゃごいっしょに参りましょうか」
「ええ」

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