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虞美人草 三(1)

时间: 2021-03-22    进入日语论坛
核心提示: 柳(やなぎ)れて条々(じょうじょう)の煙を欄(らん)に吹き込むほどの雨の日である。衣桁(いこう)に懸(か)けた紺(こん)の背広の暗
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 (やなぎ)れて条々(じょうじょう)の煙を(らん)に吹き込むほどの雨の日である。衣桁(いこう)()けた(こん)の背広の暗く下がるしたに、黒い靴足袋(くつたび)三分一(さんぶいち)裏返しに丸く蹲踞(うずくま)っている。違棚(ちがいだな)(せま)い上に、偉大な頭陀袋(ずだぶくろ)()えて、締括(しめくく)りのない(ひも)をだらだらと(ものうく)も垂らした(かたわ)らに、錬歯粉(ねりはみがき)白楊子(しろようじ)が御早うと挨拶(あいさつ)している。立て切った障子(しょうじ)硝子(ガラス)を通して白い雨の糸が細長く光る。
「京都という所は、いやに寒い所だな」と宗近(むねちか)君は貸浴衣(かしゆかた)の上に銘仙(めいせん)の丹前を重ねて、床柱(とこばしら)の松の木を背負(しょっ)て、傲然(ごうぜん)箕坐(あぐら)をかいたまま、外を(のぞ)きながら、甲野(こうの)さんに話しかけた。
 甲野さんは駱駝(らくだ)膝掛(ひざかけ)を腰から下へ掛けて、空気枕の上で黒い頭をぶくつかせていたが
「寒いより眠い所だ」
と云いながらちょっと顔の(むき)を換えると、(くし)を入れたての()れた頭が、空気の弾力で、脱ぎ棄てた靴足袋(くつたび)といっしょになる。
「寝てばかりいるね。まるで君は京都へ()に来たようなものだ」
「うん。実に気楽な所だ」
「気楽になって、まあ結構だ。御母(おっか)さんが心配していたぜ」
「ふん」
「ふんは御挨拶だね。これでも君を気楽にさせるについては、人の知らない苦労をしているんだぜ」
「君あの(がく)の字が読めるかい」
「なるほど妙だね。※雨※風(せんうしゅうふう)[#「にんべん+孱」、51-3][#「にんべん+愁」、51-3]か。見た事がないな。何でも人扁(にんべん)だから、人がどうかするんだろう。いらざる字を書きやがる。元来何者だい」
「分らんね」
「分からんでもいいや、それよりこの(ふすま)が面白いよ。一面に金紙(きんがみ)を張り付けたところは豪勢だが、ところどころに(しわ)が寄ってるには驚ろいたね。まるで緞帳芝居(どんちょうしばい)道具立(どうぐだて)見たようだ。そこへ持って来て、(たけのこ)を三本、景気に()いたのは、どう云う了見(りょうけん)だろう。なあ甲野さん、これは(なぞ)だぜ」
「何と云う謎だい」


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