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虞美人草 四 (10)

时间: 2021-03-29    进入日语论坛
核心提示:「まあ、それはおって緩(ゆ)っくり話すよ。僕も井上先生には大変世話になったし、僕の力で出来る事は何でも先生のためにする気な
(单词翻译:双击或拖选)

「まあ、それはおって()っくり話すよ。僕も井上先生には大変世話になったし、僕の力で出来る事は何でも先生のためにする気なんだがね。結婚なんて、そう思う通りに急に出来るものじゃないさ」
「しかし約束があるんだろう」
「それがね、いつか君にも話そう話そうと思っていたんだが、――僕は実に先生には同情しているんだよ」
「そりゃ、そうだろう」
「まあ、先生が出て来たら(ゆっ)くり話そうと思うんだね。そう向うだけで一人(ひとり)ぎめにきめていても困るからね」
「どんなに一人できめているんだい」
「きめているらしいんだね、手紙の様子で見ると」
「あの先生も随分昔堅気(むかしかたぎ)だからな」
「なかなか自分できめた事は動かない。一徹(いってつ)なんだ」
「近頃は家計(くらし)の方も余りよくないんだろう」
「どうかね。そう困りもしまい」
「時に何時(なんじ)かな、君ちょっと時計を見てくれ」
「二時十六分だ」
「二時十六分?――それが例の恩賜の時計か」
「ああ」
(うま)い事をしたなあ。僕も貰って置けばよかった。こう云うものを持っていると世間の受けがだいぶ違うな」
「そう云う事もあるまい」
「いやある。何しろ天皇陛下が保証して下さったんだからたしかだ」
「君これからどこかへ行くのかい」
「うん、天気がいいから遊ぶんだ。どうだいっしょに行かんか」
「僕は少し用があるから――しかしそこまでいっしょに出よう」
 門口(かどぐち)で分れた小野さんの足は甲野の邸に向った。

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