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虞美人草 四 (6)

时间: 2021-03-29    进入日语论坛
核心提示:「年来住み古(ふ)るしたる住宅は隣家蔦屋(つたや)にて譲り受け度旨(たきむね)申込(もうしこみ)有之(これあり)、其他にも相談の口
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「年来住み()るしたる住宅は隣家蔦屋(つたや)にて譲り受け度旨(たきむね)申込(もうしこみ)有之(これあり)、其他にも相談の口はかかり候えども、此方(こちら)に取り極め申候。荷物其他嵩張(かさば)り候ものは皆当地にて売払い、なるべく手軽に引き移るつもりに御座候。唯小夜所持の(こと)一面は本人の希望により、東京迄持ち運び候事に相成候。(ふる)きを棄てがたき婦女の心情御憐察可被下(くださるべく)(そうろう)
「御承知の(とおり)小夜は五年(ぜん)当地に呼び寄せ候迄、東京にて学校教育を受け候事とて切に転住の(すみや)かなる事を希望致し居候。同人行末(ゆくすえ)の義に関しては大略御同意の事と存じ候えば別に不申述(もうしのべず)。追て其地にて御面会の上(とく)と御協議申上度と存候。
「博覧会にて御地は定めて雑沓(ざっとう)の事と存候。出立の節はなるべく急行の夜汽車を(えら)みたくと存じ候えども、急行は非常の乗客の由につき、一層(いっそ)途中にて一二泊の上ゆるゆる上京致すやも計りがたく候。時日刻限はいずれ確定次第御報可致(いたすべく)(そうろう)。まずは右当用迄匆々(そうそう)不一」

 読み終った小野さんは、机の前に立ったままである。巻き納めぬ手紙は右の手からだらりと垂れて、清三様……孤堂とかいた(はじ)が青いカシミヤの机掛の上に波を打って二三段に畳まれている。小野さんは自分の手元から半切れを伝わって机掛の白く染め抜かれているあたりまで順々に見下して行く。見下した眼の行き(どま)った時、やむを得ず、(ひとみ)を転じてロゼッチの詩集を(なが)めた。詩集の表紙の上に散った二片(ふたひら)(くれない)も眺めた。紅に誘われて、右の(かど)に在るべき色硝子の一輪挿も眺めようとした。一輪挿はどこかへ行ってあらぬ。一昨日(おととい)挿した椿(つばき)は影も形もない。うつくしい未来を覗く(くだ)が無くなった。
 小野さんは机の前へ坐った。力なく巻き納める恩人の手紙のなかから妙な臭が立ち(のぼ)る。一種古ぼけた黴臭(かびくさ)いにおいが上る。過去のにおいである。忘れんとして躊躇(ちゅうちょ)する毛筋の末を引いて、細い(えにし)に、絶えるほどにつながるる今と昔を、()のあたりに結び合わす(におい)である。

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